「paperChart」は三種の神器の一つである

 「ここ数年の、麻酔科診療における3種の神器を挙げよ。」と問われたなら、私は、以下の3つを迷うことなく挙げるだろう。

(1)レミフェンタニル
(2)スガマデクス
(3)効果部位濃度予測機能のある電子麻酔記録

 レミフェンタニル登場以前は、脳外科、心臓血管外科の開心術では、どの施設でもフェンタニルを主体に使用していただろうが、レミフェンタニルの登場によって、格段に麻酔管理が楽になった。ほとんど脊椎麻酔や硬膜外麻酔を併用しているような、効果的な侵害刺激の遮断が可能になったからだ。

 スガマデクスの登場は、その理由を記するまでもないだろう。それ以前の「アト・ワゴ」による、不完全で、かつ合併症の多い筋弛緩の拮抗から、格段にパーフェクトな、そしてほとんど合併症のない拮抗が短時間で可能になったからだ。

 これら新種の薬剤による麻酔の質の向上は、いたって簡単に実現可能である。「この薬剤を、うちの病院にも導入してください。」と、新規薬剤申請フォームに記入して、薬事委員会に申請すれば、遅くとも数ヵ月後には使用できるようになるのだから。

 ところが、3つ目に挙げた「効果部位濃度予測機能のある電子麻酔記録」は、下手をすると数千万の費用がかかる。導入した結果がいくら絶大であっても、費用効果比を考えると、どの施設でも簡単に導入と言うわけには行かない。病院を説得できるだけのエビデンスにも乏しいのが実情だ。

 レミフェンタニルやスガマデクスについて、その有効性のエビデンスを証明する文献は、日々増大しつつあり、枚挙に暇がないと言っても過言ではないであろう。それに比較すると、「効果部位濃度予測機能のある電子麻酔記録」の効果について報告した論文はいったいどれくらいあるだろうか。

 当院では、「電子麻酔記録導入奮闘記」でも紹介したように、わずか50万円と言う低費用で6室に、越川先生作のフリーソフトである「paperChart」を利用した電子麻酔記録システムを導入したが、その導入に当たってのハードルはけっして低くはなかった。

 前2者の導入の容易さに比べると、「費用」の面、トラブルが起こった時に最短時間でシューティングができるだけのパソコンのハードとソフト、LANに関する「知識と技術」、電子カルテ・システムとのインターフェースなど越えなくてはいけないハードルが多々ある。しかし、それらの多くのハードルを越えてでも導入するだけの非常に大きなメリットが存在する。

 当院が手術室に採用している生体情報モニターは日本光電製であり、paperChart によるバイタルサインの記録と「BISモニター」の併用は不可能なのだが、BISモニターではなくて、paperChartを選んだのは、失敗ではなかったと思っている。

 以前は「効果部位濃度が見えるモニター」の必要性についても懐疑的であり、「そんなのが必要なのは、麻酔科に入って数年の新入生だけであろう。」と思っていた。そんな高価な機械がないと安全な麻酔ができないようじゃ、それこそ修練不足というべきだ。」とさえ思っていた。

 ところが、paperChart が前バージョンで、薬剤の血中濃度・効果部位濃度の予測が可能となり、さらに最新バージョンでは、近未来の濃度予測まで可能となり、麻酔のクォリティが格段に向上した。半ば批判的に見ていた私自身が、今は絶賛者となってしまった。

 当院に導入したのは私なので、「paperChart は偉大だね~!すごくいいね~。」などとは「自画自賛」と見られるので大きな声では言えない。学会で発表するわけにもいかない。「人のフンドシで相撲」とも言われかねない。

 しかし、このブログでだけは、大きな声で言いたい。『「効果部位濃度予測機能のある電子麻酔記録」の導入は、レミフェンタニルやスガマデクスの導入に匹敵、あるいはそれ以上の麻酔の質の向上に役立つ。』 と。

 現に、当院では、まともな「筋弛緩モニター」は1台しかなく、BISモニターも使用しているのは、開心術の時だけだが、麻酔のクォリティと電子麻酔記録の使いやすさは、近隣の病院の中で一番であると思っている。しかし、それも偏に、「paperChat」の作者である故・越川先生のお陰であると思っている。

越川先生のご冥福をお祈りいたします。合掌 

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この記事へのコメント

ウキ
2012年03月15日 11:20
はじめまして、麻酔科・電子電装HPのウキタです。僕のHPがお役にたてた事をうれしく思います。
あの頃が懐かしですw

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