麻酔変数計算機の裏側 その1:年齢補正をどうするか?

 私たち麻酔科医は長年にわたって吸入麻酔薬を使用してきた。現代の麻酔科医は、気化器を使用して設定した濃度の揮発性麻酔薬を簡単に投与することができる。考えてみると、実はこれはすごいことかもしれない。患者の身長や体重はまったく関係なく濃度を設定することができるのだから。こんな薬物は他にはない!

 ご存知のように、この吸入麻酔薬には、MAC という概念が存在し、MAC はさまざまな要因で変化することが知られている。そしてこれらの要因のうち、吸入麻酔薬を使用した麻酔を行うに当たっていつも考慮するのが、併用している鎮痛法と年齢ではないだろうか。

 年齢に応じて MAC は低下する。セボフルランでは、年齢が 10 歳上がると 7.2% 減少するとされている。MAC は薬理学的には 50% の患者に有効な濃度(ED50)と考えられるので、吸入麻酔薬については、ED50 の年齢依存性が明らかとなっているということになる。

 1996年、Mapleson によってメタ分析の結果から以下のような式が発表されている。

 MACage=MAC40×10-0:00269(age-40)

 他の薬物で、吸入麻酔薬ほどに年齢依存性が詳しく調査されている薬物はないのではないだろうか。逆に、患者の身長や体重といった体格を考慮しなくてもよい吸入麻酔薬でこそ、調査可能であったともいえるのだろう。

 そもそも、吸入麻酔薬は、鎮痛、鎮静、筋弛緩といった全身麻酔に必要な要素を 1 剤で実現しようと開発が試みられたが、結局「二兎を追うものは一兎を得ず」の諺のように、現在では、目的ごとに別の薬剤を使用するバランス麻酔が主体となっている。そして、セボフルランやイソフルランは、筋弛緩補助作用のある鎮静剤としての位置づけである。

 ならば、この吸入麻酔薬の調査から得られた年齢依存性を、経静脈的に投与する鎮痛剤や鎮静剤にも応用することはできないだろうか。

 私たちは、吸入麻酔薬が神経系に作用することを知っている。亜酸化窒素が比較的強い鎮痛作用を有していることや、揮発性麻酔薬が強い鎮静作用を有していることを知っている。そしてその作用点が、細胞膜であろうことも理解している。

 経静脈的に投与した鎮痛剤や鎮静剤が、細胞膜表面に存在するオピオイド受容体や GABA 受容体に作用することも知っている。そして、吸入麻酔薬と同様に高齢になるにしたがってその投与必要量が減少することも知っている。

 セボフルランの分子式が C4H3F7O で分子量が 200.05 であり、プロポフォールの分子式が C12H18O で、分子量 178.27 であることを知っている。また、ミダゾラムの化学式が C18H13ClFN3 で、分子量が 325.77 であることも知っている。

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 麻酔変数計算機では、投与薬物量を計算する際に、年齢依存性を考慮するために、吸入麻酔薬で明らかにされている上記の Mapleson の式によって「年齢補正係数」というものを計算しています。この補正係数を使用すれば、年齢 40 歳のヒトに投与する量を A をしたときに、同じ体格(身長、体重)の 80 歳のヒトには、A×「年齢補正係数」だけ投与すればよいことになります。


<参考文献>

Age-related iso-MAC charts for isoflurane, sevoflurane and desflurabe in man
ヒトのイソフルラン、セボフルラン、デスフルラン用の年齢に関連付けた等 MAC 図
British Journal of Anaesthesia 91 (2): 170±4 (2003) DOI: 10.1093/bja/aeg132

麻酔薬および麻酔関連薬使用ガイドライン第3版 p.97-109


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