Q:前酸素化はなぜ必要か、有効な前酸素化は何を見て判断するか?

A:気管挿管はいくらスピーディにやっても 20 秒以上はかかる。少しもたもたやっていると 1 分なんてすぐにすぎてしまう。気管挿管中は、患者さんは無呼吸状態になるのだから、その間、全身に必要な酸素が十分に供給され続けなくてはならない。

高濃度の酸素を予め投与して、血液中の Hb 結合酸素と溶存酸素、さらには肺の毛細血管に隣接している肺胞気に十分量の酸素があれば、酸素投与をしない場合に比べて、低酸素をきたすまでの時間を有意に延長することができる。

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Benumof JL, et al. Critical hemoglobin desaturation will occur before return to unparalyzed state from 1 mg/kg succinylcholine. Anesthesiology. 1997 Oct;87(4):979-82.より引用、改変

図は、通常 100% 酸素を 5 分以上吸入した後に達成できる条件である初期肺胞酸素濃度が 87% の場合、無呼吸を開始したら酸素飽和度(縦軸)はどのように変化していくかを示したものです。70kg の正常成人なら、酸素飽和度が 90% 以下となるまでに 8 分程度の時間的余裕があることを示している。

有効な前酸素化(preoxygenation)は、酸素飽和度ではなくて、呼気の酸素濃度を見て判断する。そのためには、麻酔のマスクを患者さんの顔にぴったりと当てて漏れがないようにしなくてはならない。研修医に指導する際に、「マスクをぴったり当てると患者さんが息苦しがるから、ぴったり当てないように。」などと指導している輩がいるが、本末転倒だ。前酸素化の原理と意味が十分に分かっていない。「かっこだけ」だ。

私は、「じゃ、マスクを顔にぴったり当てて酸素をしっかり吸ってもらいます。ちょっと息苦しい感じがするかもしれませんが、もう少ししたら眠ってもらいますので、しばらく我慢してやってください。」と声掛けをしながら、ヘッドバンドでマスクを固定している。

実際にやってみると分かるが、ぴったりマスクで 100% 酸素吸入をしていても、呼気酸素濃度が 90% を超えるには 5 分以上は必要だ。私は、通常 流量 5L/min で 3 分程度酸素投与してから、呼気濃度 80% 以上を確認してからフェンタニル以外の麻酔導入剤を投与するようにしている。

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自然呼吸法と深呼吸法による前酸素化:呼吸の持続時間と新鮮ガス流量の影響

最大呼吸法と自然呼吸法による前酸素化の比較

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Preoxygenation with Tidal Volume and Deep Breathing Techniques: The Impact of Duration of Breathing and Fresh Gas Flow:A & A May 2001 vol. 92 no. 5 1337-1341

このグラフからわかるように、
・自然呼吸だと呼気酸素濃度が十分に上昇するには結構時間がかかる。
・深呼吸をしてもらうと呼気酸素濃度の上昇を加速させることができる。
 4回深呼吸法(four breathing method)は有効だ。
・深呼吸では、1 分以内に呼気酸素濃度を 80% 以上に上昇させることができる。
・酸素流量を 7L とか、10L/mi の高流量にしてもさほど効果は変わらない。

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