Q:気管挿管による全身麻酔からの覚醒過程で抜管はいつするのか?

A:麻酔科研修医になりたての頃、先輩の麻酔科医に尋ねた。
私:「先生、抜管ってどうなったらしてもいいんですか?」
先輩:「あん? 呼んで目が開けば抜管してもええよ~。」と。

厳密に言えば、正しい答えとは言えないが、少なくとも、裏返せば、「呼んでも目が開かない状態では、まだ抜管は早いよ。」と言うことだ。何も分かっていない研修医にとっては、分かりやすい「教え」だった。

しかし、よくよく考えてみると、呼んで目が開くということは、筋弛緩も鎮静もかなり回復してきているということだ。大雑把だが、大方は当たっている。麻酔から覚醒が順調に進んでいれば、抜管してもいいということだ。

ただ、これだけでは本当は不十分だ。抜管はしたものの、抜管後に呼吸苦を訴えたり、無呼吸となってしまったり、はたまた再鎮静が起こって舌根沈下をきたしたり・・・、と。

その後、幾多の経験をしつつ、より厳密に、抜管をしてもよい基準(再挿管したり、エアウェイを挿入したり、とにかく抜管後に面倒なことにならないための条件)を自分なりに付け加えて行った。

まずは、鎮静状態。呼んで目が開くだけではまだ不十分だ。「手を握って!」と呼びかけて、握手ができるようなら、覚醒度は十分である。なんと「日本語が理解できている」のだから、これは相当にすごいことだ。高度な脳機能が働いている状態なので覚醒度が高いと判断できる。

それくらい覚醒していれば、特殊疾患がない限り咳嗽反射や咽喉頭反射も回復しているのが普通だが、もともと認知症が高度でコミュニケーションが不良な場合とか、覚醒度が判定できない場合は、気管内と口腔内吸引時に咳嗽反射や咽喉頭反射が回復していることを確認することは重要だ。

次に呼吸状態。1 回換気量が、安静時の 7mL/kg 相当出現しており、1 分間に 10 回以上の規則的な呼吸をしている。この状態なら、もう換気補助の必要がないというレベルである。

上記 2 つの条件とも関連するが、筋弛緩からの十分な回復が必要である。しっかりと握手ができれば、抜管可能。「大きな息をして!」に反応して、15mL/kg 以上の換気が可能なら安心して抜管可能。

筋弛緩モニターが利用できる場合なら、少なくとも TOF>70% 程度にまで筋弛緩から回復していることが望ましい。高ければ高いほど安心して抜管できる。

教科書的には、麻酔からの覚醒前に抜管する方法と、覚醒後に抜管する方法が記されている。

私は、研修医の頃に、小児の扁桃摘出術の手術終了後に、試しに前者の方法で抜管したことがある。扁桃の止血はほぼ完璧で、口腔内には血液の垂れ込みはなく、呼んでも刺激しても全く反応がないが、しっかりとした規則的な自発呼吸があることを確認して、そっと抜管した。

抜管後も舌根沈下はなく、平静な呼吸をしていたので、麻酔回復室にストレッチャで移動することにした。「こういう抜管の仕方もあるんだよ~。」などとそばにいた看護師に言いつつ。

ところが、その移送中に、手術室の自動ドアのちょっとした段差で、ストレッチャがガタッガタッと揺れた瞬間に、患児は少し咳込んだかと思うと、その直後から、呼吸運動はあっても実際には呼吸ができていない状態となり、だんだんとピンク色だった口唇の色が紫色に変わっていった。

「しまった~!喉頭痙攣だ!」
「誰か、サクシン吸って~! アンビュー持ってきて!!」

たぶん、私の顔も青ざめていたことだろう。そうこうしているうちに、患児の喉頭痙攣は自然に解除されて、平静な呼吸運動に戻っていき、口唇の色も明るさを取り戻した。

私は、この時、「こんな恐ろしい目に合うくらいなら、いくら患者さんが嫌がろうが、覚醒前に抜管するのは止めよう!」と心に誓った。この経験以来、基本的に、必ず覚醒後に抜管することにしている。

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