Q:筋弛緩の拮抗をどう使い分けるか?

昨今、筋弛緩薬(ロクロニウム)を使用した後は、「馬鹿の一つ覚え」のように何でもかんでもブリディオン(スガマデクス)で拮抗しているのを見かけるが、本当にそれで良いのだろうか。また、施設によっては、ワゴスチグミンを削除してスガマデクスに置き換えてしまっている病院もあるかもしれない。

私たちは、日常生活で、例えばどこかに移動するのに、徒歩で行くか、自転車を使うか、マイカーか、タクシーか、バスか、電車か、はたまた航空機を使用するのかを、目的地までの距離と所要時間、利用できるタイミング、費用などを勘案して、どの移動手段を使用するかを決めている。

近くのコンビニに行くのに、タクシーを使うわけないよね。費用対効果、効率から考えて、徒歩か自転車、雨が降っていれば、マイカーを使用する場合もあるかもしれない。

ブリディオンの薬価は、1 バイアル 1 万円近くもする。1 万円あれば、何人が豪華な夕食を摂ることができるだろうか? 生活保護を受けている一般市民なら、何日分の食費に相当するだろうか? アフリカの感染症で死んでゆく小児に必要な抗生物質は何人分確保できるだろうか。1 万円あれば、小中学生が必要な文具が何人分購入できるだろうか?

ブリディオンを使用しようが、ワゴスチグミンを使用しようが、麻酔科医の懐が痛むわけではないし、病院が損するわけでもないし、患者の医療費の個人負担分もそれほど変わらないだろう。しかし、結局のところは、その薬品の代金(薬剤メーカーに流れる現金)は、国民が支払った健康保険料や税金からの補填によって賄われている。

費用対効果を考えて、高額な薬品は、本当に必要な状況でこそ使用し、必要度が少ない状況では使用しないように努力することも必要だと考える。私たち麻酔科医も日本の医療を支える一国民であり、自分勝手であってはいけない。

ブリディオンは人類が生み出した画期的な筋弛緩拮抗薬であり、優れた薬品ではある。ブリディオンを使用することによって、残存筋弛緩の可能性がかなり低くでき、術後呼吸器合併症のリスクを低減できるのは事実だろうし、それによって恩恵を被る患者も確かにいるだろう。

しかし、50 歳以下の比較的若い患者で、呼吸器合併症リスクがなく、気管挿管の時にのみロクロニウムを使用して、術中追加投与はしなかった場合には、従来から使用していた「iアトロピン+ワゴスチグミン」の拮抗で十分だと考えている。そもそもの、ブリディオンによる恩恵を受ける背景自体が存在しないから。

ブリディオンを使用して拮抗する場合は、
・2 時間以上の手術で、気管挿管時以外にも、筋弛緩薬を追加投与、持続投与して使用した場合(開胸手術、開腹手術、開頭手術)。
・年齢が 65 歳以上で、呼吸器合併症のリスクが多少なりともありそうな場合。

それ以外の場合は、挿管時のロクロニウムの使用量を少なめにしておき、アトロピン+ワゴスチグミンで拮抗するようにしている。

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