Q:ラリンジアルマスクに対する誤解とは?

A:例えば、サイズ #3 のラリンジアルマスクには、「30-50kg Air<20ml/60cmH2O」と刻印されています。

これを、
・このサイズのラリンジアルマスクは、体重が 30-50kg の患者に使用することをメーカーは推奨している。
・このサイズのラリンジアルマスクのカフに注入する標準的な推奨エア量は、20ml である。
・そして、カフにその量は注入すれば、推奨カフ圧である 60cmH2O 程度の圧になるであろう

と解釈している人はいないでしょうか?

その昔、四半世紀以上も前(1983 年)に、ラリンジアルマスクを発明した Brain さんは、新しい気道器具(つまり、ラリンジアルマスクの原型)を使用して、23 人の婦人科手術患者を管理した。その際、カフ容量を少量ずつ調節して、わずか 7ml という少量のカフ容量で、十分なシーリングが可能で、合併症がほとんどないことを見出しています。たった 3 人(13%)だけが軽度の咽頭痛を訴えただけだったそうです。

×1:「ラリンジアルマスクのカフのエアは、記載してある所定量を注入すれば、所定の圧になるんでしょ!?」

「Air<20ml」の記載の意味は、「このサイズのラリンジアルマスクでは、物理的にマスクの形状を維持しつつ、許容できる最大のエア注入量は、20ml ですよ。20ml 以上注入してはいけません。」ということなのです。

「/60cmH2O」は、「Air<60cmH2O」を略記したものであって、その意味は、「ラリンジアルマスクのカフ圧は、最大でも 60cmH2O 未満になるように設定してください。」ということなのです。

さらに、「20ml」と言う記載と、「60cmH2O」という記載の間には、なんら因果関係や相互関係はありません。

● カフには 20ml 以上のエアを入れてはいけない!
● カフ圧が測定できる場合は、その圧は 60cmH2O 未満となるように設定すること!

ということなのです。

×2:「ラリンジアルマスクは低侵襲だから、術後咽頭痛なんて発生しない。あるとしても稀でしょ!?」

多くの研究で、ラリンジアルマスクのカフは過膨張させられており、術後咽頭痛の発生率は 50-90% にも昇ることが報告されています。カフ圧をちゃんと測定して、添付文書に記載してある「 60cmH2O 未満」に設定するという標準的診療行為が実践されていないことが、その原因であろうことが推察されています。

×3:「ラリンジアルマスクのカフにたくさんエアを入れれば、シーリング性能は高まる。」

この推察は、気管チューブの場合に当てはまりますが、ラリンジアルマスクの場合は該当しません。ラリンジアルマスクは、ある程度までのエア注入によってはシーリング性能は高まりますが、それ以上のカフ容量では、ラリンジアルマスクの本来の形状が過度に個性を発揮してしまって、シーリング性能はかえって低下してしまうことが明らかになっています。カフ圧を 60cmH2O 未満にするのはそういう理由からなのです。

×4:「パイロットバルーンがあるから、これを指で触ってカフ圧を調整すればいいんだよ。」

この推察は、気管チューブの場合には不適当であるとされ、「圧測定器(マノメーター)によってカフ圧をちゃんと測定して、しかるべき圧に設定するべきである」とされています。ラリンジアルマスクの場合にも同様に、「パイロットバルーンの触診による圧の推定は不適当である。」ということが明らかにされています。

「圧指示器内臓の新しい声門上気道器具は術後咽頭喉頭症状を低減する:無作為化対照試験」
Wong D, Tam A, Mehta V, Raveendran R, Riad W, Chung F. New supraglottic airway with built-in pressure indicator decreases postoperative pharyngolaryngeal symptoms: a randomized controlled trial. Canadian Journal of Anesthesia 2013; 60: 1197–203.

「ラリンジアルマスクを使用した全身麻酔で持続カフ圧制御器の効果」
Jeon Y-S, Choi J-W, Jung H-S, et al. Effect of continuous cuff pressure regulator in general anaesthesia with laryngeal mask airway. Journal of International Medical Research 2011; 39: 1900–7.

×5:「ラリンジアルマスクで起こる合併症なんて、咽頭痛以外にありえないっしょ!」

ラリンジアルマスクのカフの過膨張に原因して、咽頭痛以外にも、発声障害、嚥下障害、頚部静脈うっ滞、神経麻痺(反回神経麻痺、舌神経麻痺、舌下神経麻痺、下歯槽神経麻痺)などの発生が報告されています。

「ラリンジアルマスク挿入後の反回神経麻痺」
Lloyd Jones F, Hegab A. Recurrent laryngeal nerve palsy after laryngeal mask airway insertion. Anaesthesia 1996; 51: 171–2.

「頚部の静脈うっ滞;そのラリンジアルマスクのカフ圧との関係」
Lenoir R. Venous congestion of the neck; its relation to laryngeal mask cuff pressures letter. British Journal of Anaesthesia 2004; 93: 476–7.

「ラリンジアルマスクによる下歯槽神経麻痺:症例報告」
Inferior alveolar nerve injury with laryngeal mask airway: a case report. J Med Case Rep. 2011 Nov 30;5:560. doi: 10.1186/1752-1947-5-560 .

「クラシック・ラリンジアルマスクに関連した両側舌神経麻痺:症例報告」
Bilateral lingual nerve injury associated with classic laryngeal mask airway: a case report. Eur J Anaesthesiol. 2012 Aug;29(8):400-1. doi: 10.1097/EJA.0b013e3283514e81.

「ラリンジアルマスク Supreme と i-gel 挿入後の舌知覚障害: 2 例の症例報告」
Tongue numbness following laryngeal mask airway Supreme™ and i-gel™ insertion: two case reports.
Acta Anaesthesiol Scand. 2012 Oct;56(9):1200-3. doi: 10.1111/j.1399-6576.2012.02695.x. Epub 2012 Apr 23.

「ラリンジアルマスクを利用した気管支内エコー後の舌神経麻痺」
Lingual nerve paralysis after endobronchial ultrasound utilizing laryngeal mask airway. J Bronchology Interv Pulmonol. 2012 Jan;19(1):72-4.

「声門上気道器具使用後の舌神経損傷」
Lingual nerve injury following use of a supraglottic airway device. Br J Oral Maxillofac Surg. 2014 Mar;52(3):279-80.

「ラリンジアルマスク Supreme 使用後の片側舌下神経麻痺」
Unilateral hypoglossal nerve palsy after use of the laryngeal mask airway supreme. Case Rep Anesthesiol. 2014;2014:369563.

結局のところ、ラリンジアルマスクのカフ注入量は、気管チューブのカフ圧設定と同様に、「漏れない最低量」とするのが最適であるということです。

気管チューブの場合には、陽圧呼吸をすることが前提なので、陽圧呼吸した時にリークがない最低量を注入した時のカフ圧が最適圧ということで、「一般的な目安範囲としては27~33hPa(cmH2O)、20~25mmHg」とされていますが、ラリンジアルマスクの場合には、自発呼吸下で管理することも多くあり、「漏れない最低量」を実践した場合には、自発呼吸下では、適切なサイズが選択されていればカフ圧は「大気圧」でも十分なシール性能が発揮されます。

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