Q:CV カテーテルの先端はどこに位置させるのがよいか?

A:中心静脈カテーテル(CVC)の留置は手術室や集中治療室で頻繁に行われる処置である。CVC の先端位置は、理想的には、心タンポナーデの危険性を排除するために、心膜反転部よりも外側の大静脈で、静脈径が十分に太くて、血流が豊富で血栓が形成されにくく、血管壁にびらんや潰瘍形成、さらには血管穿破をきたさないようにカテーテル先端が血管壁に並走するように留置されることが望ましい。

輸液投与や中心静脈圧モニタリングといった短期的使用には、左右の内頚静脈や鎖骨下静脈から挿入されたカテーテルは、心膜反転部よりも遠位(上側)の上大静脈に留置されるとことが推奨されている。理想的には、CVCの遠位端は、SVC 内で垂直に配置されるべきである。

これに対して、長期的化学療法の目的のために留置される CVC は、もっと下方の、SVC と 右心房(RA)との接合部である上大静脈-右心房接合部(cavo-atrial junction)に留置されることが多い。血液透析に使用されるカテーテルは、cavo-atrial junction か、または RA 自体に留置されるようにデザインされているものもある。

カテーテル先端が近位に、例えば右または左腕頭静脈に留置することは、感染や血栓症のリスク増加と関連している。

「ニプロ インターフレックスCVカテーテル」の添付文書には、『【禁忌・禁止】』の項に、
カテーテルを右心房又は右心室に挿入・留置しないこと。[不整脈や心筋びらん、心タンポナーデを発生させる可能性がある。]
また『<使用方法に関連する使用上の注意>』の項には、
カテーテル先端が不適切な位置にあると、心タンポナーデ等が起こる可能性があります。カテーテル挿入後は、X線でカテーテル先端位置、走行を確認してください。また、カテーテル留置中におけるカテーテル位置異常に注意してください。
としか記載されていない。
「アロー 中心静脈カテーテル」の添付文書には、以下のような記載がある。ちなみに、「ARROW PICカテーテルキット」についても同様の記載がある。
『【使用方法等】  3. カテーテルの挿入』の項には、
カテーテルを仮固定し、画像診断でカテーテル先端の位置を確認する。もし、カテーテル先端が適切な位置にない場合は、再留置して確認する。
しかし、「カテーテル先端の適切な位置」がどこなのかは、ここには説明されていない。ところが、本文書の後に続く「重要な基本的注意」の項には、
カテーテルの留置時や位置変更時に、エックス線撮影下でカテーテルの先端が右心房の入り口から上大静脈の長さの 3 分の1の距離を離した位置に正しく留置されていることを確認すること。また、カテーテル先端が目的とする留置位置に保持されるよう、操作を最小限に抑えること。異常が認められた場合は患者の状態に適した処置を行うこと。
つまり、通常は、レントゲン撮影などの画像診断によって、カテーテルの先端を、右心房と上大静脈の接合部から、上大静脈長の 1/3 だけ上方に位置させるよう、いかにも「具体的に」指示されている。

しかし、胸部単純レントゲン写真上で、右第 1 弓は上大静脈を、右第 2 弓は右心房に相当することは医学生でも知ってはいるが、実際のところ、上大静脈と右心房の境界がどこなのか、また上大静脈の上端がどこなのか、心膜反転部がどこなのかは明らかではない。

したがって、添付書に記載されている指示は、理論的に理想的な留置位置を指示しているにすぎず、実際に、具体的にどうすればよいのかは処置担当者の裁量に任されている、ということになる。

CVC の留置を確認するには、胸部 X 線写真がもっとも一般的に使用される方法と考えらる。これは、単にカテーテルの走行と留置の深さを確認するためだけではなく、穿刺時に、気胸や血胸といった合併症をきたしていないことも同時に確認できるからである。

心膜反転部の上端は、胸部単純 X 線写真では確認できないが、それは、気管分岐部以下であることが一般に受け入れられている。保存死体、新鮮死体、心臓手術を受けた麻酔下小児、成人の胸部 CT で心膜反転部の上端は、気管分岐部よりも下方に存在することが確認されている。

Schuster M, Nave H, Piepenbrock S, et al. The carina as a landmark in central venous catheter placement. Br J Anaesth 2000; 85: 192–4
Albrecht K, Nave H, Breitmeier D, et al. Applied anatomy of the superior vena cava—the carina as a landmark to guide central venous catheter placement. Br J Anaesth 2004; 92: 75–7
Yoon SZ, Shin JH, Hahn S, et al. Usefulness of the carina as a radiological landmark for central venous catheter placement in paediatric patients. Br J Anaesth 2005; 95: 514–17
Caruso LJ, Gravenstein N, Layon AJ, et al. A better landmark for positioning a central venous catheter. J Clin Monit Comput 2002; 17: 331–4

そこで、胸部レントゲン写真上やイメージ装置下に、カテーテルの先端は、気管分岐部の上方にあるべきで、そうすれば心膜よりも上方に留置されたことが確認できる。下図は、上記 Schuster らの論文から引用したもの。
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さらに、その後の 2014 年、Dulce らは、同日にベッドサイド胸部 X 線(CXR)とコンピュータ断層撮影(CT)を施行した CVC のある患者 100 人で、心膜外 SVC の局所的関係を分析した結果、心膜外 SVC 長の平均(標準偏差)は 26(12)mm で、その長さと位置にかなり個人差があり、胸鎖関節-気管分岐部間距離の 85% を使用するか、CVC 先端を気管分岐部の 9mm 上方に留置すれば、高い割合で心膜外 SVC に位置させることができただろうと報告している。
Dulce M, et al. Topographic analysis and evaluation of anatomical landmarks for placement of central venous catheters based on conventional chest X-ray and computed tomography Br. J. Anaesth. (2014) 112 (2): 265-271.


CVC 先端の留置位置については。図式的な 3 つのゾーンが提唱されている。
Stonelake PA et al. The carina as a radiological landmark for central venous catheter tip position Br J Anaesth. 2006 Mar;96(3):335-40. Epub 2006 Jan 16.
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【 ゾーン A 】:下位 SVC と上位 RA を表わす。この領域では、左側から留置された CVC は血管壁と並走する可能性が高い。しかし、この領域の一部は RA 内にあり、したがって心膜反転部内にある。これは、左側の CVC が血管壁と平行になるようにするために必要な妥協案となる可能性がある。しかし、このゾーンにある右側からの CVC は、ゾーン B にまで引き抜くべきである。SVC と奇静脈接合部がこの領域内にあり、カテーテルは奇静脈に迷入しうる。

【 ゾーン B 】:左右の無名静脈と上部 SVC との接合部周囲の領域を表す。これは右側から留置された CVC に適した領域だが、左側の CVC はこの領域に急峻な角度で入り込み、SVC の側壁にぶつかる危険性があり、理想的にはゾーン A に進めるべきである。

【 ゾーン C 】 :SVC に接続する左無名静脈を表す。ゾーン C の CVC は、おそらく短期間の輸液療法や CVP モニタリングには適しているが、強心薬の注入や長期使用には適していない。この部位の安全性については疑問がある。

上記 Dulce らの報告を考慮するならば、ゾーン A とゾーン B の境界は、気管分岐部の上方約 1cm とするのが適当と思われる。

<まとめ>
1.右側から挿入した CVC の先端は、気管分岐部よりも上方の「ゾーンB」に留置する。
2.左側から挿入した CVC の先端は、血管壁にぶち当たらないように、十分な挿入長が得られる場合には「ゾーンA」に留置する。十分な挿入長が得られない場合には、「ゾーンC」に留置する。

※ 通常利用できる中心静脈カテーテルには、16cm のものと 20cm のものがある。左側からの留置が必要な場合には、20cm を使用して、ゾーンA に留置するのがよいと思われる。

<捕捉1>
CVC が原因となる心タンポナーデの合併症については、古くから知られており、すでに、1975 年にその回避法の 1 つとして、Greenall らは、カテーテルの先端は、立位 P-A CXR 上の鎖骨最下縁に描かれた線よりも 2 cm 以内でなければならないことを示唆している。
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M J Greenall et al. Cardiac tamponade and central venous catheters. Br Med J. 1975 Jun 14; 2(5971): 595–597.
しかし、ICU で使用される患者が仰臥位のポータブル A-P CXR では、患者は直立状態で撮影された P-A CXR よりも、フィルムがビーム源に非常に近く配置されために、鎖骨のような、より前方に、周辺に位置する解剖学的構造は、20% 以上フィルム上で拡大されてしまう。この視差効果がこの方法の信頼性を低下させてしまう。

<捕捉2>
視差問題を回避するために、Rutherford らは、奇静脈と上大静脈の接合部である、右主気管支と気管ガ作る角は、上大静脈の近くに位置しており、より適切なランドマークであることを示唆している。
Rutherford JS et al. Depth of central venous catheterization: an audit of practice in a cardiac surgical unit. Anaesth Intensive Care. 1994 Jun;22(3):267-71.
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