Q:中心静脈カテーテルの留置長をどう決めるか? その1(数式編)

A:現在のガイドラインは、CVC 先端が心嚢外の上大静脈(SVC)にあるべきことが強く示唆されており、様々なランドマークや、右心房心電図(ECG)、経食道心エコー検査法(TEE)といった高度な技術が推奨されている。

しかし、CVC を挿入する症例で、右心房心電図(ECG)、経食道心エコー検査法をルーチンに使用できるわけではないことから、通常は、体表計測法や数式法でとりあえず留置して、胸部レントゲン写真上のランドマーク法で確認するのが一般的である。

内頚静脈や鎖骨下静脈から CV ラインを挿入留置する場合、手術室やレントゲン室であれば、イメージ装置下にカテーテルの走行と先端位置を確認した上で固定することが可能である。しかし、忙しい麻酔導入時にわざわざイメージ装置で確認するのは煩わしいこともある。

また、病棟や救急外来では、イメージ装置がすぐには利用できないので、とりあえず、最適と推定される挿入長を数式や局所解剖から計算して、その深さで仮固定しておき、最終確認は胸部レントゲン写真で行うのが一般的である。

この留置長について、数式で決定する方法としては、Peres の式(1990)が有名で、「右鎖骨下からの鎖骨下静脈カテーテルでは H÷10-2 cm、右内頸、あるいは外頸静脈カテーテルでは、H÷10 cm、左外頸静脈カテーテルでは H÷10+4 cm に留置することが推奨される。」としている。

Peres PW. Positioning central venous catheters--a prospective survey. Anaesth Intensive Care. 1990 Nov;18(4):536-9.

その後、Czepizak CA らは、1995 年に、患者の身長をパラメータにした CVC の最適留置長を推定する、刺入点に応じた一連の公式(Peres の式に加えて、彼らが作成した)を提示し、その妥当性の検証を行っており、かなり高い確率(95%)で、適切な留置が可能であったことが報告されている。そして、さらに右内頚静脈からの挿入の精度を上げるためには、Peres の式を「(Height/10)-1 cm 」と修正するのがよいとしている。

=========================
挿入部位       公式      上大静脈  右房
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
右鎖骨下   (Height/10)-2 cm  96%   4%
左鎖骨下   (Height/10)+2 cm  97%   2%
右内頚静脈  (Height/10) cm    90%   10%
左内頚静脈  (Height/10)+4 cm  94%   5%
=========================
Czepizak CA, O‘Callaghan JM, Venus B. Evaluation of formulas for optimal positioning of central venous catheters. Chest 1995; 107:1662---1664.

この研究で、カテーテル先端位置が適切とされたのは、上大静脈(SVC)であって、右心房や右心室、あるいは、他の血管に迷入していなければよいとされた。

ところが、その後、たとえカテーテル先端が SVC(全長 6cm) 内にあっても、心膜が被っている部分(SVC の遠位部 3cm)であれば、穿通して心タンポナーデをきたすことが報告され、カテーテルの先端位置は、SVC の心膜反転部よりも頭側とするべきであることが明らかとなった。

そして、胸部レントゲン写真上で、この心膜反転部の代理ランドマークとして、気管分岐部が注目され、現在は、右側から挿入したカテーテルの先端は、胸部レントゲン写真上で、気管分岐部よりも頭側に位置することが適切であるということになった。

気管分岐部を判断基準とした場合、Peres の式で導かれた挿入長は深いことが多く、その後の多くの研究では、CVC 挿入長を予測するには十分に正確ではないことが示されている。

1) Anish M et al. Optimal positioning of right-sided internal jugular venous catheters: Comparison of intra-atrial electrocardiography versus Peres' formula Indian J Crit Care Med. 2008 Jan-Mar; 12(1): 10–14.
右内頚静脈からの CVC 留置に際して、心房内心電図と Peres の式を比較した報告で、前者では 92% が気管分岐部より頭側に正しく留置されたのに対して、後者では、48% が深すぎたとしている。

2) Kim WY et al. Optimal insertion depth of central venous catheters--is a formula required? A prospective cohort study. Injury. 2012 Jan;43(1):38-41.
いろいろな部位からの CVC 挿入長を胸部 CT で分析したところ、推奨挿入長は、右鎖骨下静脈では 14cm、右内頸静脈では 15cm、左鎖骨下静脈では 17cm、左内頸静脈については 18cm と決定し、これらのガイドラインを使用すると、CVC の初期留置が遠位 SVC となるのは、Peres 式を使用した場合よりも正確であった(91.5% vs 77.4%)としている。

3) Anandaswamy TC et al. A comparative study of landmark-based topographic method versus the formula method for estimating depth of insertion of right subclavian central venous catheters. Indian J Anaesth. 2016 Jul;60(7):496-8.
右鎖骨下静脈からの CVC 留置に際して、局所解剖法と数式法(身長÷10-2)を比べたが、いずれの方法も半数以上で、気管分岐部よりも 1cm 尾側に留置され、再度の位置調整が必要であった。

4) Vinay M et al. Depth of insertion of right internal jugular central venous catheter: Comparison of topographic and formula methods. Saudi J Anaesth. 2016 Jul-Sep;10(3):255-8.
右内頚静脈からの CVC 留置で、局所解剖法と数式法を比較したが、局所解剖法では、位置調整を必要としたのは、20.5% であったのに対して、数式法では、CVC の先端は大半が気管分岐部以下にあり、68% が位置調整を必要とした。

そもそも、Peres らや Czepizak らが CVC 先端の最適位置としたのは、心膜被覆部を含めた SVC であり、現在推奨されているのは、心膜被覆部を除いた、それよりも頭側の SVC である。したがって、Peres の式で推定される挿入長は、やや深すぎるために、結果として「十分に正確ではない」と報告されていると考えられる。

5) M Haque et al. Safe placement of Central Venous Catheter via right Internal Jugular Vein: Calculation of insertion depth by individual body height African Journal of Anaesthesia and Intensive Care Vol 11, No 2 (2011) 12-16
Peres 式と同じ(身長÷10)cm で、右内頚静脈から挿入したところ、74.22% の症例において、CVC の先端は気管分岐部レベル以上であった。残りの患者の 25.78% では、先端は気管分岐部レベルより下方 2cm 以内にあった。したがって、穿刺部位が乳様突起と胸骨切痕の中間である場合には、右内頸静脈唐挿入する場合、中心静脈カテーテル先端のすべてを心膜反転部よりも上方に位置させるために、(身長÷10)-2 cm を提案している。

以上の報告を総合すると、右内頚静脈、あるいは右鎖骨下静脈穿刺の場合、Peres の式を修正して、
右内頚静脈 : 身長÷10-2 cm
右鎖骨下静脈 : 身長÷10-3 cm

とするのが適当と考えられる。
左側からの挿入に際しては、CVC 先端位置は、SVC の心膜被覆部を含めた、やや深めの挿入が適当とされることから、Peres の式をそのまま踏襲して、
左内頚静脈 : 身長÷10+4 cm
左鎖骨下静脈 : 身長÷10+2 cm

とするのがよかろう。

なお、特に左側から挿入留置した CVC は、胸部レントゲン写真かイメージ装置で、先端が SVC に 40 度以上の角度で接していないかを必ず確認する必要がある。

この Peres に代表される数式法の最大の欠点は、大まかなアプローチの部位は特定されてはいても、実際の刺入点が考慮されていないことである。

同じく右内頚静脈を 胸鎖乳突筋内側アプローチで穿刺しても、術者が異なれば、その刺入点はまったく同一ではなく、甲状軟骨上縁で穿刺する医師もいれば、甲状軟骨下縁レベルで穿刺する医師もいる。ましてや三角アプローチでは刺入点はさらに尾側となる。

鎖骨下静脈の穿刺についても同様で、鎖骨中線上で三角筋胸筋溝(deltopectoral groove)から穿刺すると言っても術者によって内側よりになったり外側よりになったりすることは避けられない。

また、数式に含まれるパラメータは身長だけであリ、患者ごとの首が長いとか、胸郭が発達しているなどなどといった解剖学的特性は考慮されていない。

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この記事へのコメント

ピータ
2018年12月11日 09:51
病棟も手術室も血管造影室も十把一絡げにまとめる麻酔科のガイドラインに辟易としています。
「忙しい麻酔導入時にわざわざイメージ装置で確認するのは煩わしいこともある」
とするから事故が起こるんじゃないでしょうか?
リアルタイム超音波で針の先端を確認しながら穿刺し、ガイドワイヤーをしっかりとリアルタイムに透視を出しながら進め、奥まで進めたガイドワイヤーの位置異常がないことを確認しながらダイレーターで拡張し、そのガイドワイヤーの後ろをしっかり把持しながらカテーテルを進めれば右房留置でも急性期の問題が起きることはないはずです。その基本を守れないからトラブルが生じます。
ガイドワイヤーを右房に入れてはいけないのでしたら血管造影自体を否定するようなもので、IVCフィルターなど入れられないですし、肺動脈の血管造影やIVRもできないはずです。
浅い位置では、活動性のある患者の長期留置の場合、先端位置の変動はかなり激しく、奇静脈など血管迷入で使用負荷になるトラブルが生じ得ます。浅い位置で満足してるのはICUや麻酔の間の動かない間だけの話だと思います。
安全重視というのでしたら、忙しいことを理由に、ちゃんと超音波や透視を利用せず、また位置確認をサボるために、臆病な手技をするというのは筋が違う話でしょう。それなら他の科に任せてでも、全例術前日までに中心静脈を透視室で入れるようにすればいい話です。
もちろん、超音波や透視のない災害時や、救急室やICUその他緊急の場合などは全然違う話で、その場合は浅い留置を心がける必要はあると思っています。状況を分けて考えるべきではないかと思います。
SRHAD-KNIGHT
2018年12月12日 13:01
ピータさん、コメントありがとうございます。
> 病棟も手術室も血管造影室も十把一絡げにまとめる麻酔科のガイドラインに辟易としています。
それは一理あると思います。
時と場所、設備の充足度に合わせて、最適のやり方を決めるのが良いと感じています。個人的には、大病院も小規模病院も十把一絡げにまとめられている気がします。
ガイドラインを作成しているのは、大学病院など十分に設備が行き届いた病院に勤務されている先生方であって、市中の小さな病院では超音波エコーさえ使用できない施設もまだまだ多くあります。
たまにバイトで麻酔をかけに行く整形外科の病院では、全身麻酔器、生体監視モニター、ディスポのラリマはありますが、エコー装置はおろか、レミフェンタニル、スガマデクス、電子麻酔記録、ビデオ喉頭鏡、気管支ファイバーなどはありません。そのような病院ではガイドラインなんて役に立ちません。

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