腰椎麻酔時の永続的脊髄損傷:2 例の報告

・脊椎麻酔は、いくつかの利点といくつかの合併症を伴う一般によく行われる麻酔である。よく遭遇する合併症は、低血圧、体位性頭痛、低体温である。ごくまれに、心停止、けいれん発作、対麻痺や馬尾症候群、神経根性欠損などの重篤な合併症が生じる。一過性の神経学的障害は永続的神経学的合併症よりもよく見られる。腰椎麻酔による脊髄軟化症は非常にまれで、わずかな症例が文献で報告されているのみである。著者らは、腰椎麻酔後の磁気共鳴イメージング(MRI)によって実証された脊髄損傷の 2 例を報告している。どちらの場合も、経過追跡期間中に運動能力と後索路の感覚は改善されたが、脊髄視床路の感覚は改善されなかった。

・1例目は40歳の女性患者、転落後足関節骨折で脊椎麻酔下に整復固定、間欠的固定術を受けた。脊椎麻酔中に右下肢全体にショック様感覚をきたした。麻酔からの回復時に高度の脱力を伴う臀部領域までの下肢全体の全感覚喪失に気づいた。数回のステロイド治療を受けたがなんら利点はなかった。長い神経リハビリとともに脱力と無感覚は次第に改善。4か月後に歩行可能となった。しかし、臀部を含む右下肢全体の温痛覚喪失は依然とし残った。受傷から 3 年後に著者らの施設を受診した時点で、下肢力は正常。患側の温痛覚はなかったが、その他の感覚は正常。前回の MRI では正常と報告されたが、検証できなかった。再度 MRI を受けたところ、右傍脊髄片側円錐内にT2 高輝度が明らかとなった。脊髄円錐は L1 椎体の下縁で正常に終止していた。脊髄の他の部分は正常。後側弯症や他の脊椎異常の証拠はなかった。

・2 例目は 41 歳の女性で 31 歳の時に脊椎麻酔下に待機的帝王切開を受けた。脊椎麻酔中に左下肢全体の電撃様疼痛をきたした。症例 1 と同様の経過をたどった。受傷 10 年後、著者らの施設を受診、歩行できたが軽度の深部腱反射亢進とバビンスキー陽性に見るわずかな錐体路症状を認めた。L1 以下の完全な温痛覚喪失があったが他の感覚は正常。今回の受診前に何度も MRI 検査を受けたが、それらはすべて正常と報告された。しかし、検証できた MRI スキャンは低質で大きな異常は示さなかった。円錐レベル詳細な、薄いスライスの、軸写像はなかった。MRI を再度行ったところ、左片側円錐内に長分節の下方脊髄にわたる T2 高輝度が認められた。脊髄は L2 椎体上縁で終止していた。後側弯症やその他脊椎異常は認めなかった。

(この後に考察が記されているが省略)

[!]:麻酔薬が脊髄内に注入されたことが病因であると推察されている。脊髄内に注入された薬液は脊髄を縦方向に割いて行って、髄液で希釈されることのない局所麻酔薬はその神経毒性を最大限に発揮して脊髄を損傷して、MRI 画像上では円錐を含めたスリット状の T2 高輝度病変が長期にわたって描出されるようだ。この論文に、脊髄穿刺後に永続的脊髄障害をきたした症例群をまとめた表が添付されているが、16 例中 11 例で MRI 画像上に異常所見が認められている。

【出典】
Permanent spinal cord injury during lumbar spinal anesthesia: A report of two cases
Neurol India 2016;64:808-11

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この記事へのコメント

にゃんこ
2018年09月30日 20:02
私の経過と良く似ていて驚きです!
脊髄くも膜下麻酔後、麻酔が醒めるにあたり大腿部後面の痛み、腓骨、脛骨に沿っての痛み、そして痛みの部位は麻痺していました!
全く、感覚がなく動かない足首に驚いていましたが、、、
直ぐに麻酔が醒めれば改善する!…っておもっていました。
でも、何日、何週間が経過しても動く事は有りませんでした。
病院では装具を着けて歩くリハビリだけで、何とか歩行出来るようになると1ヶ月半で退院。
そこから先は、自宅で一人で毎日…四苦八苦状態のリハビリでした💦
少しずつ、少しずつ、指が動くようになり、足首が動くようになったのは麻痺から四ヶ月頃。
装具が有れば杖が無くても歩行出来るようになって、2本の足で歩けることの嬉しさをかみしめました。。、
しかし、感覚障害があり、足首にいつも締め付けられる感じ、足裏は全く感覚がないのに急な灼熱感、強い痺れは2年3ヶ月が経過しても続いています、
温痛覚は鈍いながらもあります。
健足と同じ様に動くようになったのですが、足趾に力が入らず、少しの打撲で2度の骨折もしましたが、感覚がないので自分では気がつかず痛みも有りませんでした。
しゃがむ事、正座、座ること、手すりが無いと階段も昇降出来ず、走ることも出来ません。
そんな状態な私の診断名は、「局所麻酔薬の神経毒性による馬尾症候群」…でした!!!

先生のコメントにて、本当の真実を、診断名を頂く事が出来て大変有り難く、長かったこれまでの時間が1度に帰って来たぐらい…心休まり
ずっと力が入りっぱなしだった肩の力がフッと抜ける様な感覚です(^-^)

多分…このまま一生。。。
この痺れと感覚障害、知覚異常は続いて行くのだと思いますが、、、
本当の診断名を知ることが出来て、、、
感謝致します🙇

SRHAD-KNIGHT
2018年09月30日 22:19
にゃんこ様へ
通常の問題のない脊椎麻酔が施行された場合、針の刺入時には若干の皮膚通過時の疼痛はあっても、その後、皮下→棘上靱帯→棘間靱帯→黄靱帯→硬膜外腔→硬膜→硬膜下腔→クモ膜→クモ膜下腔へと針が通過する過程で疼痛を発生することはほとんどありません。なぜなら、これらの組織には知覚神経は密に分布していないからです。
薬液注入時(0.5ml/秒くらいの速度で薬液を注入するので 5-10秒間)にも薬液がクモ膜下腔という脳脊髄液が満たされたスペース内に拡散するだけなので、圧迫感や鈍痛なども発生することはありません。
そして、注入し終わったころに、「お尻や(患側の)足が温かくなってきませんか?」と尋ね、患者は次第に同意するようになり「あっ、そう言われればだんだん温かくなってきた気がします。」というのが通常の uneventful(何ら問題のない)脊椎麻酔手技です。
針がある程度深く到達した時点で疼痛が増強したとしたら、それは神経組織に近傍に接触したか、神経組織自体を刺激した症状と考えられます。人間(哺乳類)の知覚は、通常は体表に近いほど鋭い痛みを感じるようにできています。侵襲は体外から来るものなので体表面がもっとも敏感にできているのです。
SRHAD-KNIGHT
2018年09月30日 22:20
にゃんこ様の表現「麻酔手技自体、穿刺手技時に徐々に痛みが増してきて声が漏れる程の痛みを訴えているところに、激痛の一撃で体が勝手によじれる様に飛び上がったのを看護師に押さえ付けられて手技が終了したことが気にかかります。」
この訴えは、相当の真実味を帯びて聞こえます。これは、脊椎麻酔針が、通常とは異なった経路で刺入されたか、脊髄下端(脊髄円錐)に針が刺入された状態で、局所麻酔薬が脊髄内に注入されたことをうかがわせます。経験的に、このように異常な脊椎麻酔は経験したことがないので、この穿刺手技自体に問題があったと考えざるを得ません。
今回提示した症例報告では、10年以上経過したのちでも、精度の高いMRI検査であれば、異常所見を得ることができるようなので、まったく別の系列の病院で再度のMRI検査にて本当に異常がないのかどうかを検査してもらわれるのが良いと思います。
ちなみに心筋梗塞でさえ、梗塞巣がある程度の大きさであれば、10年以上経過してもその傷跡は心電図検査で検出可能です。
セカンドオピニオンを提出した某大学の教授は、時代劇よろしく、当該病院から、「札束の入った菓子箱」なり、なんらかの「袖の下」でも受け取っていたのではないかと愚推するばかりです。
にゃんこ
2018年10月01日 05:58
私のいままで(2年3ヶ月の間)、疑問に思ったこと、不信感、調べて来たこと!…全てが先生のご意見で納得、理解が出来ました。
本当にありがとうございました‼️…(涙)
直ぐには、涙で読みきれない…
噛ましめながら、一語一句を確認しながら読ませて頂きました!

セカンドオピニオンの大学には、後から調べると、主治医と出身大学が同じ医師が居ることがネットでわかりました。
もしかしたら”本当にあった怖い話”…かも知れませんね💦

後は、、、何処の病院で、どの医師にどの様にMRI検査を受け、診断をしてもらうか???…ですね…!
私が、、病院から退院して来て直ぐに、診断診察、をしてもらいたい!…と探した病院は23件…その中で、
セカンドオピニオンなら!…と受けてくれたのが、その大学病院の教授でしたので、
私の様な、局所麻酔薬による馬尾症候群という診断名では、何処の病院でも断りました💦

なので、今更何処の病院で診察、検査を受けるか?…とは、難しい事ですね…(^^;

出来れば、先生に診てもらいたいです!
どんなに遠くても、困難でも今すぐ飛んで行きたい…と。
私の詳細も解ってくれている医師に全てをお願いしたいって思います!
ご無理を承知でのお願いを聞き入れていただけませんか?
私も、一人では交通機関を使って行くことが出来ませんので、付き添いが必要なのですが、
どんな事があっても、そちらまで出向きたいと思います‼️
…この、お願いは通じませんか?
SRHAD-KNIGHT
2018年10月01日 07:40
にゃんこ様へ、
残念ながら私は専ら手術室での勤務ばかりで、いわゆるペインクリニックなど外来向けの診療は行っていません。
やるべきことはそんなに複雑な事ではありません。
『本当に私の尾側脊髄には何の異常も認められないのか、もう一度、精度の高い MRI 検査をしてもらって、放射線科の医師に読影してもらいたいんですが、お願いできませんか。』とペインクリニックの主治医の先生にお願いしましょう。
その施設にMRIがなくても、別の施設が開業医向けにMRI検査を外来ベースで行ってくれます。
MRI設備を備えていて、放射線科医師が読影してくれる施設があれば(電話で尋ねればすぐに分かると思います)、その施設でMRI検査を受けて、放射線科医に読影してもらえるように、ペインクリニックの主治医に再度のMRI検査をしてもらってください。
受傷した当該病院とは別の系列病院が望ましいことは言うまでもありません。「セカンドオピニオンを!」というと、「厄介な話に首を突っ込みたくない」と感じて受けてくれないことが多いと思います。純粋に「私の脊髄にはMRI検査で異常は見つかりませんか?」だけを尋ねてみてはどうでしょうか。下部脊髄に異常が見つかれば、「馬尾症候群」は誤診であることが明らかになります。まったく異常が見つからなければ、「現代医療では検出不可能なんだ。」と諦めもつくのではないでしょうか。
ご健闘をお祈りいたします。m(..)m
にゃんこ
2018年10月26日 23:15
腰椎麻酔による脊髄軟化症は非常にまれで、わずかな症例が文献で報告されているのみである。

脊髄軟化症状とは?
どんな症状ですか?

急なご質問で、申し訳無いのですが、
脊髄軟化症…について知りたいです!…
新しくMRI検査でL2/3椎間板変性が有ったこと!
L4/5にあったはずのL4すべり症と診断されたこと!
…で、脊髄軟化症?って何…と疑問がわきました。現在も、胸椎11/12椎間板変性のためなのか背中の痛みと、何かしらの動きの時に腰痛があります。。。
ペインクリニックでの痛み止めの薬が効いて無いようでして健足の足首まで痛くて…💦
まぁ~仕事で無理をして動いている為でも有りますが痛みが強くあり結構…しんどくて。
アセトアミノフェン2gもフェントステープ1gもサインバルタ60mg.リリカ450mg..他に漢方の2種類を飲んでいても痛みが強く、この先が不安になります。

局所麻酔薬の神経毒性で馬尾症候群になる事以外には神経細胞はどの様に変化していくのでしょうか?
徐々に正常な状態に戻って行き、再度脊髄くも膜下麻酔が可能な状態に戻るのでしょうか?
SRHAD-KNIGHT
2018年10月27日 07:53
にゃんこ様、コメントありがとうございます。
上記文献では「myelomalacia」と表現されていて、その日本語訳が「脊髄軟化症」です。要するに脊髄梗塞と思います。
針を刺すことによって神経そのものではなくて、神経を栄養している血管が損傷を受けることもあるので、まれには針を刺したことが原因で血行障害によって脊髄の一部が虚血に陥り梗塞巣が発生することもあるということだと思います。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【脊髄軟化〔症〕】せきずいなんか〔しょう〕myelomalacia《spinal cord softening》 脊髄血管系の閉塞性(虚血性)病変により脊髄実質に軟化を生ずるものである.臨床症状は,梗塞の拡がりや部位,梗塞の原因,側副血行状態などにより多様であるが,脊髄の腹側2/3を灌流し,側副血行路の少ない前脊髄動脈の閉塞による前脊髄動脈症候群が最も重要である.ほかに後脊髄動脈症候群,横断脊髄障害,中心動脈症候群などが知られている.脊髄梗塞の原因は動脈硬化,血栓症,血管炎,膠原病などによる原発性血管病変,脊椎ないし髄膜の病変による血管圧迫,塞栓症,全身血液循環低下,静脈系閉塞疾患などのほか,大動脈奇形手術,大動脈血管撮影,放射線療法などによる医原性のものもある.
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
以上は、以下のからの引用です。
「電子ブック最新医学大辞典第2版」
発行 医歯薬出版株式会社
1990年 第1版
1997年 第2版
SRHAD-KNIGHT
2018年10月27日 07:56
(つづき)
> 新しくMRI検査でL2/3椎間板変性が有ったこと
単なる椎間板変性だけでは腰痛とは関係あるかもしれませんが、下肢神経症状とは関係ないと思います。
> 局所麻酔薬の神経毒性で馬尾症候群になる事以外には神経細胞はどの様に変化していくのでしょうか?
神経系は一度完成されるとその後はどんどん変化していくものではなく、高齢になるにしたがって次第に退縮していくものだと思います。
> 徐々に正常な状態に戻って行き、再度脊髄くも膜下麻酔が可能な状態に戻るのでしょうか?
残念ながら、それはなかなか困難と思います。脊髄損傷や脳梗塞を患っておられる患者さんを見ると、神経組織というのは、一度損傷を受けるとなかなか再生が困難な組織ですから。正常な神経組織が頑張って補ってゆこうとしますが補いきれないことが多いのだろうと思います。
にゃんこ
2018年10月27日 08:38
ご返信ありがとうございます。
多分…今、脊髄くも膜下麻酔をしても、99.9%大丈夫だと思いますが
0.1%は、1度障害を受けてしまった神経は、より重く障害を受けてしまうことになるかもしれませんね。。。
とんなに、背中や腰が痛くても、足が痛くてもブロック注射ができないのでしょうね。

今日は、リドカインの点滴が終了してから行っているAKA法ー博田式の専門医である整形外科受診をしようと思います。
何でも試してみようと思います。
SRHAD-KNIGHT
2018年10月27日 12:43
>多分…今、脊髄くも膜下麻酔をしても、99.9%大丈夫だと思いますが 0.1%は、1度障害を受けてしまった神経は、より重く障害を受けてしまうことになるかもしれませんね。。。
おっしゃるとおりです。ので、治療する側としてはあまり選択したくはないですね。
> とんなに、背中や腰が痛くても、足が痛くてもブロック注射ができないのでしょうね。
そういう訳ではなくて、そのわずかな危険性を承知したうえで、ご本人が希望されれば、ブロック注射もできないわけではないとは思います。
手術に対する麻酔においても、脊柱管麻酔(脊椎麻酔や硬膜外麻酔)による神経症状の悪化のリスクよりも、全身麻酔を回避することの方がメリットが大きいと判断した場合には、脊柱管麻酔を選択することはあります。例えば、高位脊髄損傷患者さんに下半身の手術を行う場合には、脊椎麻酔をすることによって自律神経過反射を効果的に抑制することができるので脊椎麻酔を選択します。
にゃんこ🐱
2019年05月21日 08:47
ご無沙汰しております!
先生に、ご報告です。
私に薬の提案をしてくれていたネット上での医師の事を以前に
コメントしたことがあったのですが、その医師から、こんなコメントを貰いました。



画像の診断から少し残念な事が起きていそうな気もするのですが結果がいい方向に行きそうなので時間は掛かりますが良くなる事を信じてお過ごしください、先の様にこの病態は寝たきりになっても不思議では無く治療も同じ状況の方の中では全国的にも治療も成功している部類になる数少ない部類になるので私も提案させて頂き光栄です。。

薬の選択使用は改善に向かっているので悪化すれば増量でいいと思いますがこの障害で改善して職場復帰までできる方は国内でも非常に少なく治療の選択が良かったと私も喜びの念を禁じ得ません

ですって。。。
私って本当はラッキー😃💕な患者だったのね?
未だに、こんなに痺れていて痛くても、上手く歩けなくても走れなくても…。
運が良く2本の足で歩ける様になった数少ない患者だったんだって思ったら、嬉しくも思いました。
国内には、度のくらいの同じ症例が有るのかは不明ですけどね。。。

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