Q:ヤコビ線とは?

A:ヤコビ線(Jacoby line)とは、米国の内科医 George W.Jacoby (1856-1940)が報告した古典的なランドマークで、教科書的には、左右腸骨稜の最高点を結んだ線を指します。
Jacoby GW. Lumbar puncture of the subarachnoid space. NY med J Dec 1895; 28:813-818.
Jacoby GW. Lumbar puncture of the subarachnoid space. NY med J Jan 4986;6-12
通常、患者さんの背面から見て,第4 腰椎棘突起か、または第4-5 腰椎棘突起間の高さに一致し、腰椎穿刺の際の指標とされています。

日本では、「ヤコビ線」という呼び名が一般的ですが、欧米では“Tuffier's line”(テュフィエズ・ライン) と呼ばれることのほうが一般的なようです。学生時代には、「ヤコビ」⇒「ヨゴビ」⇒「4-5 ビ」などと駄洒落で覚えたものです。

ところが、この古典的ランドマークについて、信頼できる指標ではないことが相次いで報告されています。Chakraverty らの研究では、成人の表面解剖(腸骨稜と後上腸骨棘)の触診によって同定される脊椎レベルと、画像から同定された腸骨稜結合線とを比較して一致度を評価しています。その結果、触診による腸骨稜結合線は、特に女性やBMI 高値の患者さんでは、L4 またはL4-5 椎間レベルよりは、L3 またはL3-4 脊椎レベルを同定するガイドと考えたほうが適切ではないかと報告しています。
<関連記事>腸骨陵と上後腸骨棘の触診によって同定されるのは脊椎のどのレベルか?
Chakraverty R,et al. Which spinal levels are identified by palpation of the iliac crests and the posterior superior iliac spines? J Anat. 2007 Feb;210(2):232-6.

Margaridoらの研究では、妊娠満期の女性で、触診で決定した腸骨稜結合線が、腰椎のどのレベルで交差するかを超音波で評価しており、満期妊婦では、触診で決定される腸骨稜結合線はエコーで決定されたものとは一致せず、それは最大で3 椎間上位の脊柱を横切る可能性があると報告しています。
<関連記事>触診によって決定される腸骨陵間線は脊柱管麻酔の信頼できる解剖学的ランドマークではない
Margarido CB,et al. The intercristal line determined by palpation is not a reliable anatomical landmark for neuraxial anesthesia. Can J Anaesth. 2011 Mar;58(3):262-6.

同様のLee らの研究で、エコー上では、末期妊婦の少なくとも6%はヤコビ線の解剖学的位置はL3 かそれより高く、触診による予測は、40%以上の確率でエコーで決定した解剖学的位置よりも1 椎骨レベル以上高いことがわかったとしています。そして、この格差が、腰椎椎間の誤認へと誘導し、脊椎麻酔中の神経障害のリスクを増大させている可能性があるとしています。
<関連記事>妊婦でヤコビ線の脊椎レベルをエコーで評価
Lee AJ,et al. Ultrasound assessment of the vertebral level of the intercristal line in pregnancy.Anesth Analg. 2011 Sep;113(3):559-64.

Linらは、上述したような不正確さが体格指数(BMI)や腰椎屈曲の程度といった患者要因に関連しているかどうかを調査した結果、患者さんの腹囲、体格指数、年齢が、腰椎レベル同定の精度に影響を与える可能性のある要因であり、ヤコビ線は、すべての症例で、適切な腰椎椎間を同定できる信頼できるランドマークではないようだと述べています。
<関連記事>Tuffier ラインの触診による腰椎椎間の確認の精度に影響するのは腹囲であって腰椎前屈度ではない
Lin N,et al. Abdominal circumference but not the degree of lumbar flexion affects the accuracy of lumbar interspace identification by Tuffier’s line palpation method: an observational study. BMC Anesthesiol. 2015 Jan 21;15:9.

つまり、肥満や妊娠が存在する場合、皮下脂肪の厚みや腰椎のねじれのために、ヤコビ線は必ずしも、L4、L4-5 椎間レベルを示しているのではなく、高率にL3 またはL3-4 脊椎レベルを示していることがあることを知っておくべきです。
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この記事へのコメント

にゃんこ
2018年10月02日 21:13
ヤコビー線について。
L4、L4~5がL3~4脊椎レベルになることに驚きだす。
実際…お恥ずかしい話ですが、私は肥満です。
標準ではありませんので…(^^;
これに当てはまると思います。
それに、胸椎11~12、腰椎4~5にヘルニアがあります。
同じ病院の脊椎専門医から毎月、内服薬を処方されていました。2年以上!
なので、腰が痛くても、背中が痛くなっても手術後は安心かなぁ~って思い、2か月前に大きな手術を受けたばかりなのに、思い切って手術をすることにしたのです。。。

麻酔手技をした若い後期専修医師は、L3~4間に穿刺手技をしたと、麻酔記録に有り、麻痺から24時間後に撮影したMRI画像を見ながら主治医の膝の専門医は、穿刺痕がL2~3間に有る!…と言っていました。、
穿刺部位は実は違った!!…と言うことはよく有ることです!…と言ってました!

胸椎に狭窄が有って、標準より肥満で有ったら、余計に椎間は変わってしまうのでしょうか?
SRHAD-KNIGHT
2018年10月02日 21:55
にゃんこ様、またまたコメントをありがとうございます。
> 麻酔手技をした若い後期専修医師は、L3~4間に穿刺手技をしたと、麻酔記録に有り、麻痺から24時間後に撮影したMRI画像を見ながら主治医の膝の専門医は、穿刺痕がL2~3間に有る!…と言っていました。
非常によく覚えていらっしゃいますね。やはり、L3/4 を穿刺しようとして L2/3 で誤穿刺してしまったのですね。
膝手術の目的で、L2/3 から意図的に穿刺することはまずありえません。通常は L4/5 で十分です。帝王切開などの腹部手術で高位まで効かせないといけないが、L3/4 でどう試みても穿刺できないときに、やや危険は伴うが、極力慎重を期しながら、L2/3 穿刺を試みることはあり得ます。
L2/3 穿刺が危険なのは、単に 5% 程度の確率で脊髄円錐が存在するという事実の他に、このようなヤコビ線の誤認によって、下手をすると L1/2 穿刺にさえなってしまう(ほとんんど100% 近く、そこには脊髄が存在する)ことが往々にしてあることが問題なのです。

> 胸椎に狭窄が有って、標準より肥満で有ったら、余計に椎間は変わってしまうのでしょうか?
「椎間が変わってしまう」わけではなくて、肥満があると触診では本当の骨(腸骨稜)の位置が分りづらくなって、棘突起の位置を 1 つ(時に 2 つ)誤認してしまうということです。レントゲンで骨だけ見たときには位置関係は変わることはありません。
にゃんこ
2018年10月04日 00:58
今日は複数の医師に確認をしてみました!
またまた…にゃんこです💦

L2~3間の穿刺について。
「馬尾神経損傷はを起こすから」
「L2まで脊髄円錐がある方がいるから」
「呼吸苦であったり、全脊麻になるから」
「10年前どころか、20年も前から推奨されていない」
「高位麻酔をする必要がない」
「常識的にも教科書的にも実施しない」
…等、言われていました💦
通常なら椎間の間違いが有っても、目に見えるわけでは無いので仕方がないのだと思いますが、私の場合に限っては、膝の手術なら、最初からL4~5、又はL5~S1でも良かったので、私に麻酔手技をした後期専修医師は、なぜ?最初からL3~4を選択したのか?…
1つ下げても良かったのでは無いか?…と疑問におもいました!!!
SRHAD-KNIGHT
2018年10月04日 07:18
> 私の場合に限っては、膝の手術なら、最初からL4~5、又はL5~S1でも良かったので、私に麻酔手技をした後期専修医師は、なぜ?最初からL3~4を選択したのか?…1つ下げても良かったのでは無いか?…と疑問におもいました!!!
そうですね、おっしゃるとおりです。
どの椎間を選択するかは、効かせたい範囲にもよります。より頭側まで効かせたい(腹部手術)場合には、より高めで穿刺します(通常L3-4)。これは、薬液の拡がりを1椎体分だけ頭側に移動させるだけではなくて、仰臥位では、昔は L3、現在は L4 が最も高い(ベッドから天井に向けて)位置にあり、高比重液を使用した場合は、重量によって自然と頭側への拡がりがよくなるからです。膝の手術で、L3-4 で穿刺すると頭側への拡がりが大きくなりすぎて、血圧降下が著明になります。
したがって、私的には、股関節から下の手術ならL4-5(あるいは L5/S)、腹部まで効かせたいなら L3-4 穿刺ということになります。
しかし、一方、体位の取り方や肥満度によって、L3-4穿刺が一番容易で、L4-5や L5-S は相対的に難しくなる場合もあります。ということで、初心者はL3-4 穿刺を第1候補とすることもあるかもしれません。しかし、誤認を含めて考えると、やはり、下肢手術の目的なら、L4-5 が第1選択、L5-S が第2選択、L3-4 は第3選択となります。
「複数の医師に確認」されてお分かりになったと思いますが、セカンドオピニオンの「穿刺部位は標準的」ではありません。
SRHAD-KNIGHT
2018年10月04日 07:22
[訂正]:重量によって自然と頭側への拡がり

重力によって自然と頭側への拡がり
(通常使用するのは高比重液で、クモ膜下に注入した後、髄液に拡散しつつ床面の方向へ薬液がゆっくりと移動していきます。)
SRHAD-KNIGHT
2018年10月04日 07:47
「馬尾神経損傷はを起こすから」→脊髄円錐以下は馬尾に移行するので、脊椎麻酔ならどこから穿刺しても馬尾神経損傷は起こり得ると思います。しかし、針だけでラーメン食べるのが困難なように、針で馬尾を損傷するのは困難。
「L2まで脊髄円錐がある方がいるから」→一番標準的な答え(正解)。馬尾は針から逃げてしまうが、脊髄円錐は針から逃げることなく刺されてしまう。
「呼吸苦であったり、全脊麻になるから」→これは管理の仕方次第で、そうならないように十分な麻酔範囲を得るのがプロ。全脊麻は、もっとたくさんの量の局所麻酔薬が必要で、通常量ならL2-3穿刺では全脊麻にはできない。
「10年前どころか、20年も前から推奨されていない」→勉強家ならそうでしょう。
「高位麻酔をする必要がない」→下肢の手術ならですね。
「常識的にも教科書的にも実施しない」→比較的新しい教科書で勉強した人にとっては、そうでしょう。
にゃんこ
2018年10月04日 20:47
お世話になっております!
本日も、このようなコメントを頂いたので書込みをさせて頂きます…(^^;

「少なくとも脊髄造影検査が行われるようになってから、昭和30年代位には認識されていた事項だと思います。
脊髄円錐部は通常は胸腰移行部のあたりですが、時に低位となっていることがあるということです。
MRI検査を行うと明瞭にわかります」…と。
早速…腰部のMRI検査を受けようと思っていますが、
特に、脊椎専門医では無くても、整形外科医師なら何処の病院、指定した医師で無くても、脊髄円錐が解るものなのですか?
放射線科医師に読影をお願いしないと、詳しく調べる事が出来ないのでしょうか?
また、脊髄円錐はどのような状態で写るのか?…と疑問におもいました!
通常なら…
私の場合の異常なら…
では、違いがハッキリと解るものなのですか?


SRHAD-KNIGHT
2018年10月05日 07:21
にゃんこ様へ
MRIやCT画像を見て、どこが脊髄の終端かは、少し見慣れている医師なら誰でも分かると思います。しかし、病変を検出する能力は。当然のことながら、いつも正常と異常を鑑別しながら診断を下す立場の医師の方が高いです。大雑把には、「放射線科医師>脊椎専門医>一般整形外科医>脳外科や神経内科医>外科系医師>内科系医師」と言う順に診断能力は高いのではないかな考えています。
MRI 自体の性能が低い場合は、いくら診断能力高い医師が見ても異常所見を見逃してしまう可能性はあります。
にゃんこ様の場合は、受傷後早期に撮影したMRIで、おそらく「膝」を専門にしている整形外科医から「(脊髄自体には)異常がない」と説明を受けていらっしゃるようなので、できれば、当初よりも性能が高いMRIで、放射線科医か、脊椎専門医にMRI所見を取ってもらうのが良いと思います。
放射線科医のいる病院では、各診療科の医師は、CTやMRIの画像で病変の検出を放射線科医に依頼して読影してもらうことが多くなっています。
少なくとも脊椎専門医は日本の場合は整形外科医の一派閥なので、同じ整形外科医の仲間よりも、通常まったくネットワークの存在が想定されない放射線科医に読影してもらうのが客観的な真実が得られる可能性が高いと考えます。
ネットワークの存在は怖いものです。大学教授に「穿刺部位は標準的だ」と言わせてしまうくらいですからね。同様に、異常があっても「異常なし」と言わせてしまうかもしれません。
SRHAD-KNIGHT
2018年10月05日 07:27
にゃんこ様へ、質問です。
以下の文面は誰のお言葉ですか?
「少なくとも脊髄造影検査が行われるようになってから、昭和30年代位には認識されていた事項だと思います。脊髄円錐部は通常は胸腰移行部のあたりですが、時に低位となっていることがあるということです。MRI検査を行うと明瞭にわかります」
SRHAD-KNIGHT
2018年10月05日 07:39
> また、脊髄円錐はどのような状態で写るのか?…と疑問におもいました!通常なら… 私の場合の異常なら… では、違いがハッキリと解るものなのですか?
そもそも、脊髄終端部への脊椎麻酔針による直接的外傷を負った場合(これ自体がめったにないこと)、さらに注射剤が脊髄内に注入された場合に、どのような所見が得られ、経時的にどのように変化していくのかを詳しく追跡した症例自体が非常に少ないのが現状だと思います。
これまでに紹介した記事では、空洞形成や スリット状のT2W高輝度領域として観察されるとのことです。
また一例見つけましたので、インドの症例報告をブログにアップしておきました。
針の外傷に伴って最初は脊髄自体に浮腫が起きて、その後次第に浮腫(腫れ)が治まって、今度は局所的な線維化(神経膠細胞の増殖?)が起こる。またクモ膜下炎にって神経根同士が引っ付いて集合化するなどの所見があるようですね。
にゃんこ
2018年10月05日 21:22
先生の質問にお答えしますと、整形外科医師からのコメントです。

今回…局所麻酔薬の神経毒性による馬尾症候群。というシンダンメイにてPMDAでの認定されている方を探したら、、、
(下肢麻痺という診断だけの方もいましたが)
年間1~3人は認定されています!
私が認定された同じ月にも、若い男性の方が認定されていました!
そう、珍しいものでも無いのかと思えましたし、合併症、副作用なら仕方がないのだと思っていたのですが、
「それは、防げた事故だ!」と、麻酔科の医師に教えて貰いました。
それからは、文献や論文、ネットであったりと色々調べ出して…結論は、「手技ミスであった!」…です。
なので、1度は認定された医療費、医療手当てに対して不服申し立てをしました!
もうすぐ、口頭陳述があります(来週)。
また、訴訟に対しても不利であるので、申請取消しも検討してもらっていますが、、
あくまでも、お金なんかいらないのです!、欲しいのは真実で。。。
あんないい加減な、意見書や診断書、検査結果でも認定される事が理解出来ません!、
全ては名前ばかりの、病院側の味方で、訴訟にならぬよう、うるさい患者を黙らせる機関なのかと。。。
偽麻酔医屋
2019年01月30日 09:13
ヤコビ線(Jacoby line)とは、米国の小児科医Abraham J.(1830-1919)が報告した>>どうも誤りのようですよ。
弘前大学名誉教授 松木先生が「麻酔科学のパイオニアたち」(1983年出版)で、アメリカのGeorge W.Jacoby「くも膜下腔の腰椎穿刺」という論文が出典であろうと述べています。
さらに 同じ松木先生の著書、日本における麻酔科学の受容と発展(2011) Ⅴ 「ヤコビー線」の謎 では、医学書院医学大辞典のヤコビー線項の執筆者と連絡をとり訂正の言質を取っています。南山堂、医歯薬出版の医学事典も間違った記述のままだと指摘しています。どこかで間違った記述をそのままコピーした結果と言えます。
またJacoby は両側腸骨稜の最高点を結ぶ線が第3、4腰椎棘突起間を通ると主張している、とあります。
SRHAD-KNIGHT
2019年01月30日 10:05
偽麻酔医屋さま、誤りのご指摘のコメントありがとうございます。
訂正させていただきました。
ちなみにオリジナルでは Jacoby さんは、第4腰椎椎体を通ると主張しているようです。
偽麻酔医屋
2019年01月30日 11:35
原著論文ではなくて、松木先生の著書(麻酔科学の受容と発展)からですが…

両側腸骨稜最高部を結ぶ線は第4腰椎体の中央を通るが、線の直上の棘突起は第3腰椎のものであるとしている。体表面で見ると線は第3、4腰椎棘突起の間を通るとしている。これがJacoby の主張である。

うまく理解出来ないのですが、
平面(骨の投影図)でとらえる時と、立体(実際の体表面)でとらえる時の差ですよね?
SRHAD-KNIGHT
2019年01月30日 12:59
偽麻酔医屋さま、再びコメントありがとうございます。
>平面(骨の投影図)でとらえる時と、立体(実際の体表面)でとらえる時の差ですよね?
その通りだと思います。
>両側腸骨稜最高部を結ぶ線は第4腰椎体の中央を通るが、線の直上の棘突起は第3腰椎のものであるとしている。
ちょうと1895年にレントゲンがX線を発見して、その後、実用化が進んでいったものと思われ、レントゲンフィルム上での考察を述べているのではないでしょうか。
>体表面で見ると線は第3、4腰椎棘突起の間を通るとしている。
これは、体表からの解剖学的考察なのでしょう。

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