Q:正しい前酸素化の方法とは?

酸素飽和度の値が良好であることは、血中のヘモグロビンが十分に酸素化されていることを示すだけであって、今現在十分な換気ができているか、気道が開存しているか、肺内に十分に高濃度の酸素が存在するかについては何も語っていない。

酸素を吸入させて、酸素飽和度が 100% になれば、十分な酸素化が行えたといえるかもしれないが、けっして十分な「前酸素化」が行えたとは言えない。

前酸素化の目的は、麻酔導入後に無呼吸となった後に、酸素飽和度が低下するまでの時間をできるだけ延長し、血液酸素飽和度が 90 未満となってその後、飽和度が急落して低酸素血症をきたす危険性を低下させることだ。

安全無呼吸時間は、通常、呼吸停止または換気から末梢動脈血酸素飽和度(SpO2)が 90% に低下し、その後急激に低下するまでの時間として定義される。

健康な患者では呼気酸素濃度を 90% にまで前酸素化しておけは、安全な無呼吸時間を室内空気呼吸時での 1 分と比較して 8 分まで延長することができる。麻酔導入後の酸素飽和度低下までの時間が長ければ、気道確保に伴う時間に対する心理的プレッシャーが減少し、それによって術者不安が軽減され、パフォーマンスが向上する。

気管挿管に手間取りそうなときとか、迅速導入で無呼吸後に換気したくない場合には、特に重要となる処置である。

正しい前酸素化は、体内の酸素貯蔵量を十分に増加させることである。この時、もっとも重要な生理学的構造は、通常呼吸の呼気終末時に肺内に存在するガスの容量で、機能的残気量と呼ばれるものである。

組織や血液にもある程度の酸素貯蔵が可能であるが、酸素吸入させることによって、酸素貯蔵量をもっとも効率的に増加させることが期待できるのは、肺内に存在する酸素量である。室内空気を呼吸する場合と比較して、酸素を吸入することによって、肺の酸素貯蔵量を約 6 倍にまで増やしうる。
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前酸素化後の機能的残気量、血液、組織、全身の貯蔵酸素容積の経時的変化


したがって、この肺内に存在するガス容量を、できるだけ多く確保し、なおかつ、そのガスの酸素濃度をできるだけ高濃度にすることによって体内の酸素貯蔵を効果的に増加させることができる。

機能的残気量は、立位から仰臥位になるだけでも低下する。肥満や妊娠があるとさらに低下する。筋弛緩剤投与によって横隔膜が弛緩すると、自発呼吸下よりも低下する。しかし、通常のモニター環境では、この容量を推定する手段はない。しかしながら、通常の場合よりも、機能的残気量の低下が危惧される症例では、低血圧のリスクがある場合を除き、上体挙上するか、逆トレンデレンブルグ体位として、少しでも機能的残気量を増加させておくことが望ましい。

一方、肺内の酸素濃度を十分に増加させることができたかどうかを確認するには、呼気酸素濃度を見なければいけない。しかし、この呼気酸素濃度をきちんと評価できるようにするには、患者が呼吸する時にフェイスマスクがしっかりと密着していて、顔面とマスクの間にリークがなく、呼吸中のリザーバーバッグの適切な動きを伴って、カプノグラフィの正常波形が確認できる状態でなくてはならない。
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呼気酸素濃度を評価する際に、その数値だけではなく、モニター上のカプノグラフィ波形が正常であることも同時に確認しなくては、モニターに表示された呼気酸素濃度の数値だけでは、本当に患者の呼気時に採取されたガスの酸素濃度を表示しているのかどうか疑わしい。

モニター上のカプノグラフィ波形が正常であれば、「マスク換気困難」の 3 つの要因
(1) マスク・シールが不適切
(2) 気道抵抗の増加
(3) 呼吸器系のコンプライアンス低下
のうち、「(1) マスク・シールが不適切」という要因を予め除去することが可能である。

酸素を供給する回路は高流量で使用し、少なくとも 10L/分の酸素流量があれば、ほとんど呼吸回路で再呼吸を防ぎ、前酸素化時に最大の呼気酸素濃度を得ることができる。

前酸素化を開始する前に。リザーバーバッグを完全に殻にして、回路を酸素でフラッシュすることによって、呼吸回路の脱窒素を行うことができる。

《前酸素化の要点》
・ぴったりフィットのリークのないフェイスマスク
・正常なカプノグラフィ波形の描出
・最高濃度の酸素(100% 酸素)を使用する。
・分時換気量以上の高流量の酸素を使用する。
・リスクのある患者では、上体を挙上して機能的残気量を増加させる。
・症例に応じて CPAP や NPPV を使用することによって、機能的残気量を増加させることができる。
・呼気酸素濃度をモニターして、肺胞酸素濃度を十分に上昇させることができたかどうかを確認する。少なくとも呼気酸素濃度>80% は必要だろう。
・通常の一回換気量であれば、最低 3 分以上自発呼吸する必要がある。
・時間的に余裕がない場合には、最大呼出して肺内の脱窒素を行ってから酸素吸入を行うと効率的である。
・最大換気ならば、1 分間に 8 回で通常呼吸 3 分と同等か、あるいは、それ以上の効果が得られる。

成書を紐解いても、あまりきちんと書かれていないようなので、まとめてみました。これがきちんと行えていない場合は、麻酔専門医を剥奪されても仕方ないとさえ思っている。

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Q:前酸素化はなぜ必要か、有効な前酸素化は何を見て判断するか?

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