Q:全身麻酔からの覚醒時の新鮮ガス流量はどう設定するか?

 近年、全身麻酔の主体が吸入麻酔から静脈麻酔に移行してきたせいだろうか、全身麻酔終了時に麻酔から覚醒させる際の手順に混乱が見られるようだ。

 静脈麻酔から覚醒させる場合には、単にシリンジ・ポンプをオフにして、プロポフォールとレミフェンタニルの持続投与を中止して、血中濃度が下がってきて覚醒を待つだけだ。通常は、麻酔器の呼吸器設定を操作する必要はないだろう。

 しかし、吸入麻酔から覚醒させる場合には、単に、セボフルランやデスフルランのダイアルをゼロにして、投与を中止するだけではいけない。麻酔器からの新鮮ガス流量を分時換気量以上の高流量に上げて、呼気から二酸化炭素を除去したリサイクルガスが、吸入ガスに混入しないようにする必要がある。

 亜酸化窒素を併用した吸入麻酔を使用していた頃は、亜酸化窒素による拡散性低酸素症を予防するために、100% 酸素を通常成人の分時換気量である 5 L/min 以上の、通常は 7~10 L/min 程度にして、呼吸器設定はそのままに、揮発性麻酔薬と亜酸化窒素が体外に排出されて、血中濃度が覚醒濃度に達するのを待つのが通常であった。

 近年、亜酸化窒素を使用しなくなり、揮発性吸入麻酔薬+空気+酸素で吸入麻酔を行うようになってからは、亜酸化窒素による拡散性低酸素症が発生することはなくなったので、100% 酸素を吸入させる必要はなくなった。また、逆に高濃度酸素を使用することの有害性も近年明らかになってきている。

 私は、通常は、吸入麻酔を行う場合は、空気:酸素=2:1 L/min、あるいは、1:1 L/min で維持しているが、覚醒時には酸素濃度がより空気組成に近くなるように、空気:酸素=8:2~3 L/min の高流量としている。

 肺胞内に高濃度の酸素が存在して、なおかつ換気がない場合には、急速に吸収性無気肺が生じる。これに対して、肺胞内に十分量の窒素が存在する場合には、肺胞はなかなか虚脱しない。肺胞内に酸素しかない状態は、いわば無気肺準備状態であり、他方、十分な濃度の窒素の存在は、無気肺抵抗状態なのである。

 麻酔からの覚醒直後は、筋弛緩の残存効果や、鎮静剤・鎮痛剤の影響で、しばしば浅い呼吸や、徐呼吸が生じがちである。したがって、麻酔からの覚醒を促す段階で、高濃度の酸素を吸入させるのは、「無気肺を起こしてください。」というようなものだ。

 麻酔導入時の 100% 酸素吸入による前酸素化(preoxygenation)が、後続する気管挿管中の無呼吸時の低酸素症の発生を予防する上で重要なのと同様に、覚醒・抜管前の前窒素化(prenitrogenation)も、後続する呼吸抑制時の吸収性無気肺を予防する上で重要であると考えている。

 このように考えてくると、静脈麻酔から覚醒させる場合にも、吸入麻酔からの覚醒時と同様に、空気組成に近いガス組成に変更した方がよいのかもしれない。

<参考文献>

吸入酸素濃度と肺傷害,感染症:高い吸入酸素濃度の有用性と問題点 佐藤暢夫、小谷 透

適度の肥満成人での術後呼吸機能に与える周術期酸素濃度の影響

酸素濃度と麻酔中の進行性無気肺形成の特徴

Kinetics of absorption atelectasis during anesthesia: a mathematical model
C. J. Joyce, A. B. Williams

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