Q:食道挿管でも呼吸音は聞こえる!?

A:聞こえることがある。

当時、麻酔指導医(今の専門医)の資格を得てまだそれほど経っていなかった。カプノメータは、全室にはまだ装備していなかった頃のことだ。

胃切除術の患者さんで、けっこうでっぷりした体格の男性だった。胸部硬麻の後、気管挿管を行った。声門が視認できたので、「楽勝、楽勝!」と、聴診はせずに麻酔器の人工呼吸器を作動させながら、バイトブロックを噛ませて、チューブのテープ固定をし終わったころに、気道内圧アラームが鳴りだした。

「あれっ、変だな~。」

気道内圧アラームの設定は・・・、問題なさそうだ。
気道内圧が30cmH2O程度に上昇している。喘息発作か、それとも痰でも溜まっているのか?

手動に変えて、聴診してみるが、両側の胸部でちゃんと聴診できる。しかし、バッグは確かに重い。
肥満があるためか、胸部の拳上は確認できないが、腹部の上下運動はありそうだ。

「何か、おかしいな・・・・・」

吸痰してみたが、何も引けない。

そのうち、98%あったはずの酸素飽和度がだんだん、96、95・・・と次第に低下してきた。

「これは、自分一人の思考回路では見逃していることが分からない!」
瞬間的にそう思って、「K先生を呼んできて!」と看護師に叫んだ。

幸い、上司のK先生がすぐに来てくれた。

私:「先生、ちょっと聴診してみてください!」と聴診器を手渡した。

K先生:「どれどれ」

私は、バッグを何回も揉んだ。
K先生は、私と同様に両側胸部を聴診された。

K先生;「あ、はい、入ってます、入ってます。」
私:「ねっ、ねっ、入ってますよね!!」と念を押した。

K先生;「入ってます。」

しかし、飽和度がさらに低下してきており、88、87、86・・・

もう一刻の猶予も許されない。

「まさかの食道挿管!!!」と思って、テープを外して、再度喉頭展開してみた。
そこには、チューブの上にぱっくりと開いた声門が見えた。

「もう一本、チューブ頂戴!!」
あ~~~~、食道挿管だった~~~~~~!!!!!!!!

2人の麻酔指導医が両側胸部を聴診して、「聴診上は、何も問題がない。」と思ってしまった。
しばらく、落ち込んだ。自分の目と耳が信じられなくなった。

管の先に袋状の臓器があるという点では、「食道+胃」も、「気管+肺」も同じである。
しかし、通常、食道挿管して呼吸させようとしても十分に入っていかなかったり、呼気が返ってこなかったりして食道に入っていることに気が付くのだが、食道に挿管した状態で、しばらく人工呼吸をしてしまうと、胃がパンパンに膨らんだ状態になって噴門部の一方向弁的に作動する部分も開いてしまって、送り込んだガスが、肺と同じように呼気として返ってくる状態になってしまうのである。

しかも、この様な状態に陥るころには、前酸素化で酸素で満たされていた両肺はすっかり吸収性無気肺の状態となり、胃を換気している音が両胸部にまで非常によく響くようになっているのである。

現在では、このようなことは起こらないだろう。カプノメータがあるし、胸部の聴診は胃部を含めた5点聴診が標準となっているからだ。

しかし、このような事例があったために、5点聴診が標準的な手技になっていったのであろうと考えている。

気管挿管後は、聴診だけでなく、複数の手法を用いて食道に入っていないことを確認しなくてはならない。


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