Q:麻酔はなぜ必要か?

A:「熱が出たときに、むやみに解熱剤を使用するのは良くない。」とよく言われる。発熱は、細菌などが生体に侵入した際に、細菌の至適増殖温度域よりも体温を上げて、それらの増殖を抑制し、また免疫系の活性化を促す。発熱は生体に自然に備わった防御機能であるから、解熱剤を使用してこうした生理的反応を妨害してしまうのは、かえって生体にとって不利になるから、というのがその理由である。

では、「手術をする際に生じる痛みは、生体に自然に備わった生理的反応であるから、むやみに麻酔で抑制するのは良くない。」と主張する人がいたら、この主張に対してどう反論すればよいだろうか?「痛くて手術できないから。」というのは、ちょっと説得力に欠ける気がする。

この質問は、実は麻酔科にやってきた研修医にしばしば浴びせているものだ。

「痛み」は、生体内部から発するものもあるが、多くは外部からの侵害刺激の結果として発生する。現代社会においては、手術という外科的侵襲も外的侵害刺激の一つである。

ここでは、一旦、現代社会とはかけ離れた原始社会を考えてみよう。

あるヒトが、広大な草原を、何か食べ物がないか散策していた。ところが、突然目の前に猛獣が出現して、襲ってきた。猛獣の鋭い爪で、引っ掻かれて腕に大きな傷ができてしまった。

その時、ヒトの内部では、当然のことながら「強い痛み」が発生する。この痛み刺激は、自律神経系の一つである交感神経系を緊張させる。

交感神経系は精神興奮や運動に際して、血圧・血糖を高め、皮膚・内臓の血管を収縮させて血液を筋肉・脳に集めるなど、おおむね全身の活動力を高める働きをする。

心臓の心拍数が上がり、心収縮力が増強され、血液循環が高度に促進される。また、呼吸器系に対する作用としては、呼吸数が増し、気管は拡張し、生体内への酸素の取り込みと、生体から二酸化炭素の排出が促進される。

なぜ、このような反応が起こるのか。どうして生体内にはこのようなメカニズムが内在しているのだろうか。

腕に傷を負ったヒトは、目の前にいる猛獣と「格闘・闘争」して猛獣を叩きのめすか、はたまた一目散に全速力で「逃走」するか、の二者択一に迫られる。しかし、いずれにしても、しばらくは、全身の筋肉にブドウ糖と酸素を大量に供給しなくては、その目的は達成できない。

この交感神経系の緊張と、それに付随する全身のさまざまな反応は、後続する「闘争」、あるいは「逃走」のための下準備ともいえるものだ。もしも、このようなメカニズムが発動されなければ、ヒトは、まんまと猛獣の餌食とならざるを得ない。

では、現代社会に戻って・・・・

手術に際して発生する痛みも、当然のことながら、原始社会のヒトと同様に、本来生体に備わった生理的反応を惹起する。しかし、手術台に横たわった患者は、メスを持った外科医を殴り倒すことも、はたまた、手術室から逃げ出すこともできない。そうしてしまっては、本来の目的とする手術治療を受けることができなくなってしまう。

つまり、手術という状況においては、通常想定される後続する「闘争」、あるいは「逃走」ができない状況であり、痛みに惹起される交感神経系の緊張とそれに付随する全身反応は無駄な下準備となってしまう。いわば、駆動系と関係を絶たれたエンジンをひたすら空ぶかしするようなものだ。

無駄な「交感神経系の緊張とそれに付随する全身反応」は、全身を疲弊させ、心臓発作や脳卒中発作を惹起しかねない。このような無駄な生体反応を惹起させないために「麻酔」が必要となる。「手術」と言う人為的な非常に特殊な状況下でjは、麻酔をしない場合よりも。麻酔をした場合の方が、圧倒的に生体にとって有利となるから、というのが麻酔が必要となる理由だ。

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