Q:マスク換気困難の予測因子とは?

A:Langeron ら(2000)は、1502 人を対象とした研究から、マスク換気が困難な予測因子として

① 年齢 55 歳以上(Age>55yr)
② 肥満(BMI>26kg/m2
③ ひげの存在(Presence of beard)
④ 歯がない(Lack of teeth)
⑤ いびきの既往(History of snoring)


の 5 つのリスク要因を特定し、
リスク因子が 2 つ以上あるとマスク換気困難の可能性が高い(感度 0.72 特異度 0.73)
・マスク換気困難があると、挿管困難、挿管不可能がそれぞれ 4 倍、12 倍になる。
・マスク換気困難かつ挿管困難、マスク換気困難かつ挿管不可能の発生率は、1.5% (95% CI, 0.9~2.1%) と 0.3% (95% CI, 0~0.6%)と報告している。

① → 加齢は関節可動性の低下や軟部組織の伸展性が低下するため気道の開存性維持や換気が困難になると考えられる。
② → 肥満があると「内側にも太っている」ため、気道が狭小化しやすい。また胸郭コンプライアンスの低下にも寄与する。
③ → 口周囲の過剰な髭の存在はマスク・フィッティングを困難にする。
④ → 総義歯が外してある場合には、マスク・フィッティングが困難になる。
⑤ → いびきの存在は、睡眠時の筋緊張低下によって容易に舌根沈下が生じて上気道が閉塞しやすいことを意味しており、マスク換気困難の要因となる。

2000 年以前には、挿管困難ばかりが注目されていたが、挿管困難であっても、とりあえずマスク換気さえできれば、患者を生命危機に陥れることはないこと、マスク換気困難があれば、そうでない場合に比べて、挿管困難である確率が数倍~数十倍に増加することから、マスク換気の重要性が再認識されるとともに、マスク換気困難を予測できることが重要視されるようになった。

しかし、マスク換気困難の明確な定義がなかったため、報告によってその発生率は、 0.08%~15% と広い範囲にわたった。そこで、Han らがマスク換気困難のグレード分類(2004)を提唱し、その後、Kheterpal ら(2006)は、それに従って、マスク換気困難は 1.4%、マスク換気不能の発生率を 0.16% と報告している。

Langeron らが挙げた 5 つの予測因子は、種々のニーモニック(記述しやすいように簡略化した英単語や記号の組み合わせに置き換えたもの)が考案され、一般に使用されている。

O:Obese(BMI>26kg/m2
B:Bearded
E:Elderly(age>55y)
S:Snorers
E:Edenturous

B:Bearded
O:Obese(BMI>26kg/m2
N:No teeth
E:Elderly(age>55y)
S:Snorers

B:Bearded
O:Obese(BMI>26kg/m2
O:Old age(age>55y)
T:Toothless
S:Snores

また、これらに似たものとして、「呻(うめ)き」の英語「MOAN」の複数形「MOANS」(=「呻き声」)が、救急領域では、よく利用されている。

M:Mask seal/Male/Mallampati
O:Obesity/Obstruction
A:Age
N:No teeth
S:Stiff/Snoring

「ひげの存在(Presence of beard)」は、すなわち、Mask seal が困難になる典型例と考えれば、このニーモニックも、前出の予測因子を想起させるのに同等の意味を有するものである。

しかし、これらのうち「歯がない」という因子は、マスク換気困難のリスク要因ではあっても、必ずしも挿管困難の要因とはならず、むしろ「歯がない」場合の方が相対的に開口度が増して視野が改善し、圧倒的に挿管はしやすい。逆に、挿管困難症例は、ほとんどの場合、歯(特に上顎門歯)の存在が、リスク要因となる。

単にマスクのフィッティングが不良で、マスク換気が困難な場合には、声門上気道器具なり、気管チューブなりを挿入してしまえば、ほとんど場合、大事に至らない。

マスク換気困難が予想される場合には、さらに、声門上気道器具の挿入困難、気管チューブの挿入困難(挿管困難)をきたすリスク要因がないかどうかをチェックしておくことが重要である。

<参考文献>
Prediction of Difficult Mask Ventilation Anesthesiology. 2000 May;92(5):1229-36.

Grading Scale for Mask Ventilation Anesthesiology. 2004 Jul;101(1):267.

Incidence and Predictors of Difficult and Impossible Mask Ventilation Anesthesiology. 2006 Nov;105(5):885-91.

Manual of Emergency Airway Management Ron M. Walls, ‎Michael Francis Murphy - 2012 - ‎Medical

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