Q:気管チューブにリドカインスプレーはなぜだめなのか?

A:気管チューブに使用する潤滑剤としては、近年は、KYゼリーが推奨されていて、リドカインゼリーはあまり使用されなくなってきているようだ。当院でも長年リドカインゼリーを使用してきたが、KYゼリーに変更しようと申請を出しているところである。

質問に戻って、リドカインゼリーはいいけれども、スプレーはダメというのは、ちょっと合点がいかない人も多いのではないだろうか。かくいう私も、キシロカインゼリーを使用するまでに、けっこう長年、キシロカインスプレーを使い続けていた。

「ピンホールができることがあるから使わない方がいいんだって」という忠告を聞き流しつつ、「長年にわたってスプレーを使っているけど、ピンホールが開いたことなんて一度もないけど・・・」と言いながら。

『「リドカインポンプスプレー8%「日新」』の添付書の、「適用上の注意」ー「適用上の注意」ー「使用目的(2)」には、
気管内チューブには噴霧しないこと(「取扱い上の注意」の項参照)。

と記されており、さらに「取扱い上の注意」の項には、
.
本剤を気管内チューブに噴霧することにより、気管内チューブのカフ部分の破損(ピンホール)、及びチューブのマーキングが消失することがあるので、気管内チューブに噴霧しないこと。

とある。さらには「その他の注意」の項には、
本剤の投与により、気管内挿管後の咽頭痛、嗄声等の発現を増加させたとの報告がある。
と記されている。

以前に紹介したことのある文献:「気管チューブ・カフへの塩酸ベンジダミン、10%、2% リドカイン・スプレーが術後咽喉痛に及ぼす効果」にも
「2%リドカイン群、生食群と比較して、10%リドカイン群では、抜管後 1、6、12 時間に、POST の重症度が有意に高かった。」
という結果が報告されている。ちなみに、「POST」=Postoperative Sore Throat。
また、さらに古い文献だが、
リドカインスプレーの喉頭気管内適用は、完全静脈麻酔後の術後咽頭痛の発生率を増加させる
という報告もある。

さすがに、ここまで書いてあると、積極的には使用できないな。

また、気管チューブの添付書の方にも、
3. 不具合・有害事象
(1) 重大な不具合
リドカイン局所エアゾールを使用した場合にカフのピンホールが発生するという報告がある(主要文献 1)ので、リドカインを使用する場合は、臨床に十分注意し、カフからの空気漏れを防止すること。

1. 主要文献
(1) Jayasuriya, K.D., and Watson, W.F.: P.V.C. Cuffs and Lignocaine-base Aerosol. Brit. J. Ann. 53. : 13.68,1981

と記されている。

スプレー側にも気管チューブ側にも記載があるので、やはり使用しない方が無難である。

上記の主要文献には、ピンホール発生するメカニズムについて詳しく書かれているのだが、やや英文が難しくて、完全には理解できないのだが、どうも、スプレーに含有されているリドカインは、リドカイン塩基であって、水にはほとんど溶解しない物質であり、他方ゼリーに含まれているリドカインは、水溶性のリドカイン塩酸塩のようだ。

スプレーには、水に溶けにくいリドカイン塩基を液体に溶かすために有機溶媒が含まれているのに対し、ゼリーの方にはそのような有機溶媒が必要ない。このように、同じリドカインといえども、リドカイン塩基と、リドカイン塩酸塩の PVC に対する溶解性の違いが、PVC 製のカフにピンホールを生じさせる原因となっているようだ。

リドカインスプレーは、PVC 製のカフを局所的に軟化させたり、時にはピンホールを発生させたりするくらいの性質を有しているので、人体の粘膜にスプレーすることで、局所の発赤や水疱形成をきたしてもおかしくないだろう。また、そのようなスプレーが、人体局所への噴霧用に製剤化されていること自体が、ほんとうは問題なのかもしれない。

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この記事へのコメント

こわいですよ
2017年08月06日 20:17
かつて分離肺換気でよく行っていましたが、直後は問題ないのですが挿管30-60分後にモレ++となり”禁忌”と考えます。

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