Q:前酸素化で無呼吸許容時間が8分に延びるのはなぜ?

A:前酸素化(preoxygenation)とは、気管挿管の前に一定時間酸素を吸入させて、肺内の空気の多くの部分(窒素)を酸素で置き換えておくことを指す。別の表現では脱窒素(denitrogenation)という。

全肺気量(total lung capacity:TLC)のうち、通常の呼気終末には、機能的残気量(functional reserve capacity;FRC)と呼ばれる肺容量が、血液に酸素を供給するために酸素リザーバーとして機能する。

通常、この容量は、立位では 30~40mL/kg とされている。しかし、この容量は、体位によって大きく変化し、立位から仰臥位になるだけで 30% 減少して、20~30mL/kg 程度になってしまう。さらに、鎮静剤と筋弛緩剤が投与されて、患者が積極的な呼吸運動をしなくなった麻酔状態に陥ると、さらに低下して、FRC は立位時の約半分の 15~20ml/kg 程度となってしまう。

60kg の成人ならば、この容量は約 900~1200ml 程度と計算できる。一方、酸素消費量も覚醒時の 250mL/min に対して、麻酔状態では酸素消費も減少するするため、この時の酸素消費量を 200mL/min と仮定しよう。

機能的残気量のほとんど全て酸素で置換することができれば、FRC による酸素リザーブを 1000mL 程度確保することができる。血液が含有する酸素リザーブは 1 リットルあり、さらに FRC に 1000 mL あれば、合計 2 リットルの酸素リザーブが確保できることになる。

麻酔下での分時酸素消費量を 200mL/min と仮定すれば、酸素が完全に枯渇するまで無呼吸許容時間は、
2000÷200=10 分
と計算できる。

空気吸入時の無呼吸許容時間が 4 分であるのに対して、適切な前酸素化を行えば、麻酔下の無呼吸許容時間を倍以上に延長させることができる。気管挿管の前処置として、前酸素化を行うことの意義はここにある。
以下の図は麻酔科医、救急医であれば絶対に理解し、記憶ししていなくてはならない。あくまで、十分な前酸素化を行った後に、無呼吸となった場合の、酸素飽和度の推移である。
画像

適切な前酸素化を行うための方法は、以下を参照のこと。
Q:前酸素化はなぜ必要か、有効な前酸素化は何を見て判断するか?

"Q:前酸素化で無呼吸許容時間が8分に延びるのはなぜ?" へのコメントを書く

お名前
メールアドレス
ホームページアドレス
コメント